エイルの買い物――特に書物を買う時、半端ではない時間を消費する。それを知らないことは、平和か不幸か――マナの性格は我慢強い方だが、物事には限界というものが存在する。
通常、自身の買い物スタイルを説明するものだが、エイルはそのことを説明しようとはしない。これが当たり前と思っており、普通と認識しているからだ。だが、本を買うのに三時間というのは一般的ではない。
「行こうか」
「その前に、お礼を言いませんと」
「そうだった」
「先程の神官様がいれば、いいのですが」
「建物の中で、仕事をしているよ」
「……あの神官様は、お優しいです」
人間は無意識の内に、本音を口に出してしまう生き物。しかし、本人は全く気付いていない。無意識という言葉が示しているように、マナは自分がどのような台詞を言ったのかわからない。その為自身を見詰めているエイルに首を傾げ、どうかしましたかと尋ねていた。
「いや、気にしなくていいよ」
「そう……ですか」
「それより、早く捜しに行こう」
エイルは、言葉の意味を追求することはしなかった。それは、雰囲気的にしてはいけないと判断できたからだ。彼女の深層心理に何かが潜んでいるに違いないが、今は暴いてはいけない。
無論、雇い主という立場を利用して聞き出すのもいけない。それにそれをやったら、関係を悪くする。今は、目的を遂行するのみ。神官を捜し、書店へ行く。そして、大量の書物を買い自宅に帰る。
それが、今日の予定だ。
王都メルブローネの書店は、予想以上の規模を誇っていた。流石、多くの書物が売られている場所。その量に、マナは目を丸くしてしまう。一方エイルはこのような光景を見慣れているのか、いそいそと目的の本を探している。そしてマナは、呆然と立ち尽くすしかない。
エイルの悪い癖。それは一度物事に集中してしまうと、周囲か視界の中に入ってこないのだ。それにより、マナはどのように待っていればいいのかわからない。また声を掛けても、エイルからの返答はない。仕方がないので一緒に立ち読みをすることにしたが、難しい内容は理解できない。


