ロスト・クロニクル~前編~


 その者の家は「気に入らない」という理由で、潰れてしまった。それだけクリスティの力は、半端ではない。だから、多くの者が彼女に跪く。簡単な説明であったが、クリスティという人物を知るには十分すぎる。何よりマナはメルダース自体、凄い場所と思っていた。

 しかしそれ以上に、学園長の権力は侮れない。世の中は、思った以上に広い。それを知っているエイルは、やはり凄い人物だとマナは思う。

「素敵です」

「お陰で、苦労も多いよ」

「勉強ですか?」

「そう……でも、楽しいよ。努力していれば、きちんと認めてくれるから。それは、嬉しいよ」

「素晴らしいです」

「そうだね」

 発した言葉の裏側には、嬉しい感情と複雑な心境が入り混じっていた。確かにメルダースの実情は面白く楽しいが、それ以外は苦痛が多い。それにエイルは滅多に愚痴を言わないが、今は愚痴を言いたい気分が強い。しかし、ひとつ喜ばしいことがあった。それは、マナのことである。

 当初ぎこちない態度を見せていたが、それは徐々に変化していき今では普通に会話をしている。一体、どのような心境の変化があったのかはエイルにはわからなかったが、これはこれで嬉しいもの。やはりオドオドとした態度は見ていていいものではないし、気分が重くなる。

「そうでしょうか」

「うん。それがいいよ」

「が、頑張ります」

「気張らなくていいよ」

「……努力します」

「本当に、面白いね」

 エイルは今までの間、多くの異性に出会ってきた。その中で、マナは特別と言って過言ではない。それは恋愛対象という意味合いではなく、このように大人しく真面目な異性がはじめてということだ。
勿論、メルダースには多くの異性の学生が学んでいるが、彼女達の大半は自己主張が強く、中にはプライドが高い者もいる。

 レベルの高い学園で学んでいるということが性格の変化を生み出しているのか、彼女達は友人として付き合うのはいい。だが、それ以上は難しい。異性に、何を求めているのか――だが、エイルは多くを語らない。全てをはぐらかし真実を隠してしまうので、両親もイルーズもエイルの恋の内情を知らない。