名前は、エイルを縛り付けていく。それはきつく苦しく、時に呼吸を止めてしまうほどだ。それからの開放は、いつか――それは、エイル自身もわかっていない。ただ、そのひとつが迫っている。
体調を整えないといけない。
風邪に、注意しないといけない。
そして――
今は別の事柄が重要だった。必要な本を買いに行った後、勉強に付いてリンダに相談しないといけない。気分転換という言葉は失礼に当たってしまうが、プレッシャーが圧し掛かるエイルには気分転換が必要だった。そうしなければストレスが溜まってしまいし、いい結果が生まれない。
「お食事以外で……」
「うん?」
「何か、他に……」
「いや、それだけでいい」
「で、ですが……」
「これは、自分で何とかしないといけないから。今頼ってしまうと、メルダースでの生活が厳しくなってしまう」
メイドの仕事を真面目に行っている者としては、エイルが行っていることを黙って眺めていることはできなかった。それに伯爵家の内情に、メイドが口を出していい立場ではないことを知っている。
「生真面目だね」
「そうでしょうか」
「メルダース入学前にメイドの世話になっていたけど、彼女達はもう少し融通がきいていたよ」
「そうした方が、いいでしょうか」
「そのような意味じゃない。僕は、最低限の事は自分でやろうと思っている。その方が、メイド達に与えられる自由な時間が増えると思って。メイドの仕事が忙しいことくらい、知っている。それに、マナはマナで普段の仕事が大変だろう。結構、頑張っているみたいだし」
「……エイル様」
その言葉に、心臓が締め付けられてしまう。メイドの立場と体調を気に掛ける人物が、複数存在していたとは――
エイルは、親切で心優しいバゼラード夫婦の息子。しかし、それで全てを説明付けるのは難しい。両親の性格が子供に遺伝していくという話をマナは知っていたが、エイルという人物は特別でそれで片付けられる問題ではない。それに、メイドに気配りをしてくれるのは嬉しい。


