ロスト・クロニクル~前編~


 だけど――

 人間の感情は、思った以上に複雑。

 夢を見てしまう。

 何故、両者の間に差が生じているのか。

 ふと、マナはそのように思ってしまう。

 エイルという人物はメルダースで最高位の勉強と魔法を学んでおり、何より伯爵家の次男として不自由無く生活を送っている。一人の人間に、多くの幸福が宿っているのは羨ましいこと。

 他の人物の幸福を羨み妬むのは、やってはいけないというのはわかっているが、人間は感情を持つ生き物、どうしても負の感情を抱いてしまうことが多い。しかし、今の仕事は嫌いではない。

 屋敷で共に働いている人物は優しい。それに、数年前では考えられない友人という存在ができた。幸せといえば、今は幸せであった。そして、エイルに出会えたことは一番大きい。

 エイルに視線を向けたまま、マナは呆然と立ち尽くしている。それは、言うべき言葉が見付からないからだ。身体は、いまだに熱い。そして自分は、どうすればいいのか。マナは複雑な表情を浮かべていた。

「マナ?」

「はい」

「具合が、悪い?」

「それは、平気です」

「頬が赤いから、風邪をひいているかと思って。クローディアは、この季節でも涼しいからね」

「身体は、丈夫だと思います」

「それ、羨ましいよ」

 常に、成績は上位でいないといけない。

 更に、留年はしたくはない。

 それらが混ざり合い、エイルは徹夜で勉強を行っている。身体が丈夫ということは実に羨ましい。エイルは滅多に風邪をひかないが、油断していると風邪をひいてしまう。そうなれば、勉強をすることができない。そしてメルダースに戻れば、最終学年という重圧が圧し掛かる。

 卒業は、できるのか――

 その前に、親衛隊の試験が待っている。この職業も、身体が資本。王族を守護する者がひ弱で病弱であったら、洒落にならない。だからこそ、兄イルーズは親衛隊の試験を受けることができなかった。一族の為、兄の為――だが、それを相談できる人物はマナではない。