そもそもこのレポートを書く原因は、ラルフにあった。
そのラルフが飼っているフランソワーが、大事なレポートを食してしまった。
彼がきちんと鍵を掛けておけばフランソワーは脱走しなかったし、このようにレポートも食べられずに済んだので、ラルフが悪いとエイルは決め付ける。
「そういえば、魔法の的が欲しかった。安心していいよ、そんなに強力な魔法は使わないから」
エイルが発した言葉の意味を理解したのか、更に暴れてしまう。
しかし、逃げ出すことはできない。
その時“ポン”と、手が叩かれた。
日頃エイルが学んでいるのは攻撃を主体とした魔法であるが、魔法にはもう一種類存在する。
それは、治療を目的とした魔法である。
専攻が違うので、エイルは回復魔法の基礎理論は知らない。
有しているのは回復魔法を学んでいる友人から借りた、魔導書に書かれている知識程度。
これだけで使用できるほど回復魔法は簡単ではないが、エイルはやろうとしていた。
其処には「面白い」という黒い考えが存在した。
それに相手は人間ではなくオオトカゲで、それもラルフが飼っている可愛いペット。
これほどの好条件はなく、格好の標的になる。
また、大事に発展しても文句を言うのはラルフ一人。
もし煩く言うようなことがあれば、魔法を放ってぶっ飛ばしてしまえば静かになる。
そもそも回復魔法は、物語に登場するような「呪文を唱え発動すれば一瞬にして傷が治ってしまう」という、便利な力ではない。
あれは物語の中の都合のいい解釈方法であって、現実とは比例しない。
それに本当にそのような力であれば、この世界の医者は消滅してしまう。
本来の回復魔法は、生き物が自然に備わっている治癒力を高め傷口を防ぐ。
それ故、大怪我を負っている者に回復魔法を使用するには危険が伴う。
傷を治すのにも相当な体力が必要で、その弱っている人間の体力を無理矢理絞り取ったら結果がどうなるかは火を見るより明らか。
万能魔法と思われている回復魔法であったが、そういう面を考えると意外と弱点の方が多い。
切り傷や擦り傷程度の怪我であったら、治すのは簡単だろう。
だが重症の怪我人の場合、医者に治療してもらった方が助かる確率が高い。
それに何より、患者の精神的負担も軽かった。
「ぶっ飛ばすことはしない。回復魔法を使ってみたいだけだから。自分の身体を使うのは嫌だし」
相手の怪我を治す魔法。
即ち、怪我をしていなければ練習にならない。
と言って、怪我をしている人物を見つけるというのは、無理に近い。
それに授業の最中に見つけに行っていたら、時間が掛かって授業にならない。
その結果、自分自身を犠牲にして練習を行うのが一般的。


