メイドは、仕事をしていればいい。
それ以外、何ができるという。
所詮、お前は――
その時、マナの脳裏に若い男女の声音が響く。しかし、周囲にいるのはエイルのみ。だが、確かに聞こえた。
この声音は――
ふと、全身から力が抜けてしまう。その瞬間、身体が左右に揺れ倒れそうになってしまうが、寸前でエイルに救われた。片手で、身体を抱き締められている。最初それに気付いていなかったが、時間の経過と共に自身が置かれている状況がわかっていく。刹那、マナは赤面した。
今日、何度赤面し恥ずかしい気分になったのか。
今は、悪い気分はしない。
「大丈夫?」
「はい。有難う……ございます」
「魔法の影響?」
「いえ、違います」
「成功?」
「……多分」
声音は、徐々に低くなっていく。それは、目の前にエイルの顔があったからだ。今まで、異性の顔をまじまじと見たことはない。それに整った顔立ちに、オッドアイの双眸が美しい。それらに惹き込まれてしまったマナは、全身が硬直してしまう。そして、体温が一気に上がる。
「それなら、いいけど」
「あ、あの……」
「何?」
「放して……下さい」
「あっ! そうだった」
その言葉にエイルはマナから離れると、気分を悪くさせてしまったと謝ってくる。しかしマナは、頭を振り違うという意思を示す。別に「嫌い」という感情を持っていたのではない。
恥ずかしい。
ただ、それだけ。
今までメイドの仕事に集中していた為に異性への免疫は皆無に等しいので、反応の仕方がわからないが、自分が抱いている感情の意味は理解している。だからこそ懸命に「持ってはいけない」と、言い聞かせる。現に、相手は伯爵の称号を持つ人物の息子。身分が違う。


