今回は「黒エイル」を持ち出してはいけないが、ラルフの顔を思い出すと口調が荒くなってしまう。それほど「ラルフ」という人物はエイルにとって強敵であり、ついつい渋い表情を浮かべてしまう。しかしそれは無意識に行っていることで、エイル自身も気付いていない。
「エイル様のご気分を害する、人物なのですか」
「そうかもしれない」
「そのような人物でも、メルダースに入学できるのですか。やっぱり、学力なのですね……」
「マナ?」
「いえ、何でもありません」
自身の学力を気にしているのか「メルダース」という単語が出ると、喜んで食い付く。その後、現実の厳しい事情を知ると、悲しい表情を浮かべてしまう。メイドとして仕事をしていなければメルダースに入学の道を選んでいたのか、マナの勉学に対しての情熱は高い。
「勉強する?」
「で、ですが……」
「僕は、構わないよ」
「いえ、リンダ様が」
「ああ、そうか」
何かを行う場合、メイドを統括しているヒルダに報告しないといけなかった。知識を増やすという理由で勉強を行うのは構わないが、メイドの仕事に支障を来たしては何にもならない。それに、マナの仕事の仕方は「真面目」という言葉が似合い、いないと周囲が困ってしまう。
だからといってバゼラード家でメイドが足りないわけではなく、通いのメイドが多いという点が重要だった。住み込みのメイドなら、遅い時間まで仕事を行える。しかし通いとなってしまえば、規定時間以外で働かせるわけにはいかなかったので、マナも重要な戦力と看做される。
「それなら、帰ったらリンダのもとへ行こう。今日、二回もリンダの顔を見るのか……嫌だな」
「……すみません」
「どうして、謝る?」
「エイル様に、迷惑を掛けていまして……」
買い物に行く途中で、自分の都合で怪我してしまう。そして神殿の井戸を借りている時点で迷惑を掛けているというのに、エイルの魔法で怪我を治してもらった。更に、勉強のことでリンダに頼みごとをしてくれる。その連続した厚かましい行為に、マナは俯いてしまう。


