浪々と響く、呪文の一文。無論、マナは何を言っているのかわからない。魔法を学び呪文というものがどのような言葉を使用しているか、それを理解している者ならエイルが唱えている呪文を聞くだけで、その特性と効果を判断することができる。しかし相手は素人なので、未知の言葉に等しい。
今は、静かに待つしかない。また、勝手に動くと邪魔になってしまう。雰囲気で察したマナは目を閉じ、低音の声音で唱え続けている呪文を聞き入る。そして、時間が過ぎるのを待つ。
刹那、徐々に掌が温かくなっていく。それはその箇所だけに日差しを浴びているような、心地いい温もりだ。同時に、痛みがスーっと引いていく。これが、魔法の力――はじめての体験に、マナは驚きを隠せないでいた。不思議な力を簡単に使いこなすエイルを、尊敬してしまう。
「どうかな?」
「だ、大丈夫です」
「傷口は……良かった、塞がっている」
「凄い力ですね」
「そう……かな? それと、此方を向いていいから」
「メルダースで勉学を学んでいると、違うのですね。皆様が目指している訳が、わかりました」
周囲に魔法を使える人物がいないということだけあって、一言一言が大げさに表現していく。使えない人物にしてみれば、不思議で仕方が無い。その為、言葉に熱が入ってしまう。自分が持っていない物を持っている相手。エイルに視線を向けたマナは、正直な気持ちを伝える。
「マナは、勉強が好き?」
「興味は、あります」
「その言葉、あいつに聞かせてやりたいよ。メルダースに入学したというのに、他人に頼ってばかりだから」
「あいつ?」
「学友……というより、悪友かな? いや、あれは迷惑な存在。とにかく、鬱陶しい。邪魔だ」
メルダースでエイルが、どのような生活スタイルを送っているのか。それを知る者は、限られている。勿論「黒エイル」という一面を目の当たりにしている者は、クローディアに一人としていない。
その為、マナは「あいつ」と言いその人物を貶していくエイルの言葉が信じられなかった。しかし本来のエイルは、此方の一面が強い。以前は大人しい性格を有していたが、ラルフの影響でスッカリ変わってしまった。今では簡単に魔法をぶっ飛ばし、ラルフを虐めている。


