ロスト・クロニクル~前編~


 今まで出会ってきた人物と、やはり違う。エイルの両親とイルーズは、確かに優しく親切だ。しかし、このように泥を落とす性格ではない。貴族様は、貴族様。そのような雰囲気が漂うものだが、エイルからはそれを感じ取れない。どちらかといえば、マナに似ていた。

 エイルが服を叩いている最中、身体が硬直し動くに動けないでいた。それに、心臓が激しく鼓動してしまう。懸命に「恥ずかしい」という感情を抑え付けていたが顔は正直らしく、徐々に紅色に染まっていく。

「これでいい?」

「……はい。十分です」

「それなら次は、手を洗おう」

「あの……何処で」

「神殿の井戸を借りればいい」

「大丈夫でしょうか?」

 神殿は基本、自由に立ち入り可能だが、今まで結婚式が行われていたので、神殿内は慌しい。部外者の立ち入りは邪魔になってしまうので、それなら裏口を利用すればいい。其処は、荷物の出し入れなどで利用される場所。別に、一般人が利用しても怪しまれることはない。

 エイルの提案に、マナは頷き返す。それに神官達は優しいので、井戸を借りたいという頼みごとを無碍に断るということはない。逆にそのようなことをしたら、神官の評判を落とすとエイルは説明する。

 マナにとって、エイルの言葉が心強かった。彼が大丈夫と言えば、大丈夫。いつの間にか、マナはエイルを信頼していた。その後、二人は神殿の裏口へと向かうと神官の姿を捜した。




 運良く、簡単に神官を見付け出すことができた。その者は二十代後半と若いが、神官という立場に就いているだけあって、立ち振る舞いは一般人と異なっている。エイルはこの神官に、井戸を使用していいか尋ねる。勿論、相手からの回答は使用していいというものであった。

「宜しいのですか?」

「断る理由は、ありません」

「偉い方に、聞いた方が……」

 オドオドとしたマナの言葉に、若い神官は頭を振るう。井戸の使用は、特に制限していない。それに、水は自然の恩恵そのもの。それを規制するということは、女神の怒りを買ってしまうという。また、エイル達は悪人ではない。外見で判断した若い神官は、使用を許可してくれた。