メイドの仕事は主に掃除と洗濯なので、掌に怪我を負っているとその両方に差し支えてしまう。それに傷口が沁みて、水仕事が辛い。またこれを理由として、仕事を休むということはできない。それなら早急に手当てをしないといけないのだが、マナはそれを拒絶していた。
「何故?」
「ご、ご迷惑に……」
「傷が悪化してしまう方が、迷惑だよ。それに、リンダが何と言うか。彼女は、メイドに関しては煩い」
メイド達は自分の可愛い娘達と思っているので、リンダは過度に厳しい一面を有している。理由は、リンダの内情が関係していた。彼女は未亡人で、両親の話ではエイルが生まれる以前に旦那と死別しているという。自身の一人娘は遠い国に嫁いでおり、滅多に会う機会がないらしい。
そのような理由から、彼女はメイド達を自分の娘のように思い可愛がっていた。無論、メイド達もリンダを慕っている。そして彼女の内情を知っているエイルは、メイド達を無碍に扱えない。
それに――
このままでは、夜食にあり付けない。不謹慎と思われてしまうが、今のエイルは其方の心配をしてしまう。
無論、傷の治療も頭の中に残っている。しかし「親衛隊の試験」と「メルダース卒業は」最重要事項なので「怪我を治療し、夜食を作ってもらう」という個人的事情で、動いてしまう。
「立てる?」
「は、はい」
「服は……切れていないか」
怪我と同時に心配なこと、それはメイド服が切れていないかどうか。しかし、心配は無用だった。
服は泥で汚れていたが、特に穴は目立っていない。体格がいい女性に押し倒された時、全身を打ち付けていた。それを考えると、掌の怪我だけで済んだのは奇跡に等しい。メイド服の確認を終えたエイルは片膝を付いてしゃがみ込むと、無言のまま泥を丁寧に叩いていく。
「エ、エイル様」
「何?」
どうして、親切にしてくれるのか。本来、メイドがこのようなことを行わないといけないのだが、今はエイルがメイドの役割をしている。懸命に止めてほしいということを訴え掛けるが、エイルが聞き入れることはない。それどころか「これくらいは平気」と、返事を返すのみ。


