そうなると、貴重な書物が危ない。
フランソワーは、目に付いたものを片っ端から口に入れるというおかしな性格を持っている。
もし大事な書物を食われてしまったら、知識の結晶が失われてしまう。
しかし予想に反して、フランソワーはおかしな行動を見せた。
助けてもらったことに対し何も反応を見せず、何処かに向かって行く。
その目的の場所とは、エイルのカバンが置かれている椅子。
そして何を思ったのか器用に二本の足で立ち上がると、エイルのカバンの中に顔を突っ込んだ暫くカバンの中身を漁ると、何かを咥えて顔を覗かせた。
それは、レポートの一部。
次の瞬間、フランソワーはそれを美味しそうに食べはじめた。
それも、クシャクシャと音をたてながら。
「うっ!」
衝撃的な光景に、エイルは絶句する。
徹夜で仕上げていたレポートが、フランソワーに食われてしまうとは、誰も考え付かない。
これこそ、ラルフの呪いか祟りか。
思わず、頭を抱えてしまう。
全てのレポートが腹に納まるには、時間は掛からなかった。
満足したフランソワーは欠伸をすると、そのまま出入り口に向かう。
だがこのまま大人しく帰すほど、エイルは優しくはない。
次の瞬間、エイルはフランソワーの尻尾を踏み付けた。
それも、全身の体重をかけて。
フランソワーが母親になるというのは、知ったことではない。
ラルフの件でストレスが蓄積しているというのに、ペットのオオトカゲが見事にやらかしてくれた。
結果、エイルの怒りが爆発した。
エイルに尻尾を踏まれていることに、フランソワーは鋭い歯を剥き出し威嚇の体勢を取るが振り返った瞬間、急に大人しくなってしまう。
どうやらエイルが放つどす黒いオーラに、恐れ戦いたようだ。
睡眠時間を削って仕上げていたレポートを食われてしまったのだから、怒りは半端ではない。
踏みつける足に捻りを咥えつつ見下すその表情は、いつものエイルとは異なっていた。
「飼い主が躾を行わないというのなら、僕がやるしかない。覚悟してほしいね。容赦はしないから。僕が徹夜で書いていたレポートを食いやがって……本当に、悪い子だね……君は……」
懸命に逃れようと、フランソワーは手足をバタつかせる。
この姿からは、凶暴で残忍と恐れられているオオトカゲとは思えなかった。
ラルフがこの姿を見たら、どのように思うだろう。
多分「助けてやってくれ」と懇願すると思われるが、そのようなことで許されはしない。


