少年は、多くの使用人を信頼している。
だからこそ、適当に扱っていた。
コンコン。
ふと、扉が叩かれた。
その音は軽快なリズムと化し、少年の耳に届く。
日中の時間帯に使用人が来ることは、滅多にない。
誰が来たのだろうと首を傾げつつ、扉の先に待つ人物に声を掛ける。
すると返答の声音は、聞き慣れたものであった。
しかし相手は、滅多に少年に自室に来る人物ではない。
警戒しつつも少年は一言言葉を返すと、相手を室内へ招き入れる。
その者は、予想通りの人物。
そう、歳の離れた兄だった。
「顔色が悪い」
「考え事」
「考え事? ああ、そうか」
どのような意味か察したのか、フッと口許を緩めていた。
そして弟の心情を理解したのか、考え事に対して深く追求することはしない。
だが、気になっている部分は聞く。
それは、入学についてだ。
「通知はどうした」
「うん。これ――」
「苦労したのか?」
「……少し」
素っ気無い返事の仕方に、兄は肩を竦めていた。
家族を含め使用人の全員が、少年の苦労を知っている。
メルダースの入学試験を受けるには、死に物狂いで勉強をしないといけない。
それを証明しているのが、机の上に山積みに置かれている本。
それらを用いり少年は、徹夜で勉強をしてきた。
表紙に記されている文字に統一性は存在せず、数多くのジャンル本が一箇所に集まっている。
そして、全ては年代物。
中には日焼けの影響で薄茶色に変色してしまっている物もあり、これらの本が書かれた時代背景と年代を教えてくれる。
同時に、過酷な勉強の仕方も――
「疲れているな」
「そう?」
「寝ているのか?」
「その言葉、兄さんに返す」
急な切り返しに兄と呼ばれている人物は、ポリポリと顎を人差し指で掻く。
確かに指摘を受けたように、徹夜の日々が続いている。だが「無理」という限度は見極めており、限界まで身体を酷使していない。
一方、弟は違う。
身体を限界以上に酷使し続け、ぶっ倒れるまで勉強し続けてきた。