ロスト・クロニクル~前編~


 真面目に、勉学に勤しむ。それを行っていれば、入学は可能か――だが、それは甘い考え。それでも、多くの者達は一度は夢を見る。無論、マナはその思いを持っていたという。しかし、途中で諦めてしまった。結局は、学力が左右する世界。中途半端な学力は、足許を掬う。

「そうなの?」

「馬鹿……ですね」

「いや、それはないよ。メルダースに入学してくる者の多くは、何かしら野望を持っているから」

「野望ですか」

「友人で、親衛隊に入隊したいという人物がいるから。その人物は、僕より立派だと思うね」

「エイル様は、立派です!」

 刹那、甲高い声が響き渡った。突然の声音に、エイルは目を丸くしてしまう。物静かで大人しい女性と思っていた人物の予想外の行動。無論、そのように思ったのはエイルだけではない。周囲にいた者達の視線が、一点に集中した。そして聞こえてきたのは、マナの批判。

 それは、徐々に悪口へと変化していく。女性は「はしたない行動は、慎むように」と、教育を受けている。それにメイドは、勤めている屋敷の家名を背負っているようなもの。メイドの不当な行動は、時として相手に迷惑を与えてしまう。この場合、バゼラードの名前に傷が付く。

「す、すみません」

「驚いたよ」

「エイル様は、留年していません」

「それは、違う」

「ですが、エイル様は頭がいいです」

「それも、違う」

 秀才と利口――それは、似て非なるもの。秀才は、勉学で有した知識が豊富な人間。そして利口は、生き方が上手い人間。この場合、エイルは前者に当て嵌まる。メルダースで得た知識は多いが、生き方が下手。そして親衛隊の試験に合格し入隊した後、上手くやっていく自信がない。

 激しく悩み苦しむ。エイルは、後者の生き方ができればいいという。知識は、所詮飾り物に等しい。

 現にラルフは、面白く生きている。馬鹿馬鹿しい人間であったが、あれはあれで理想の生き方だ。何物にも囚われず自由奔放に、それでいて周囲の者達を何故か惹き付けてしまう。嫌い嫌い――言葉と態度で拒絶はされているが、本当に嫌いであったら馬鹿にもしない。