これにより、夜食の心配をしなくていい。メルダース時代、毎日のように徹夜で勉強を行っていたが、夜食は食べていない。それにより、腹の虫は煩いほど鳴り続けていた。お陰で、予習復習に集中することができなかった。しかし、今回は違う。彼女に頼めば、温かい食べ物を食べることができる。
ふと、エイルは「夜食」という単語の裏側に隠された、相手の料理の腕前に付いて気になってしまう。彼女はメイドとしての仕事はテキパキとこなしているが、料理の腕前がそれに比例するとは限らない。食は生きていく上では欠かせないものなので「美味いか不味い」か、気になってしまう。
「料理は、得意?」
「お菓子は、作ります」
「それ以外の料理は、どうかな」
「多分、作れると思います」
「それなら、夜食を頼みたいな」
「わ、私に……」
メイドとして長く仕事を行っていたが、夜食を作って欲しいと頼まれたのは、はじめてだったので、マナは言葉を失う。それは驚きと緊張が入り混じった結果であり、反射的に顔を左右に振ってしまう。マナの料理は趣味程度のものなので、エイルに作るだけの技術はなかった。
「いいのでしょうか」
「何か、不満でも?」
「いえ、そのようなことは……私は、調理を得意としていません。それに、お屋敷には専門の方がいらっしゃいます」
「そうだけど、深夜に仕事していないから」
それは、尤もの意見であった。それに住み込みの使用人――特にメイドは、マナしか残っていない。他のメイド達に、夜食の注文は憚れる。いくら相手が使用人とはいえ、帰宅を妨害することはできない。それなら、住み込みで働いているマナしかいない。それに、年齢が近いと頼みやすい。
「そ、それでしたら……頑張ります」
「有難う。助かるよ」
「そんなに勉強しないと、いけないのですか?」
「進級試験もそうだけど、定期試験も難しいね、メルダースのテストって、甘く見ると痛い目に遭う」
その説明に、マナは大きく頷く。メルダースの生徒ではないので、深い意味を理解することはできないが「徹夜で勉強」という言葉に、改めてエイルの凄い一面を知る。漠然的に「メルダースは、世界一の学園」ということしか、知らない。だが、それは甘い認識だった。


