マナにとってメルダースは物語の世界の話なので、夢を見てしまう。メルダースの奨学金制度は充実しているので「勉強をしたい」という意思を持っているのなら、入学は可能だ。
だが、それは入学後の話なので、それ以前に入学試験に合格できるかわからない。多くの者達はこの時点で人生の厳しい部分を学習しているので、メルダースの名前に高い価値が生まれる。
エイルに、学生生活に付いて質問したい。しかし、言葉に出して尋ねる勇気が湧いてこなかった。
神殿へ向かって歩き出す二人。その間、会話は全く盛り上がらない。彼女は大人しい性格の持ち主であり、尚且つメイドという身分も相まって言葉を封じてしまう。ただ、頭の中で質問の内容だけが回る。
相手は気難しい性格の持ち主ではないので、意を決しメルダースに付いて尋ねても問題はないが「エイルは、偉い人物の息子」と、意識してしまっているので、ますます言葉が封じられる。
その時、エイルが口を開いた。それは質問を投げ掛けるという合図であり、マナにとっては好都合な出来事へと変化する。これによって、会話を進めるタイミングと切っ掛けが生み出された。
「昨夜、遅い時間まで仕事をしていなかった? 多分、そうだったと思うけど……違ったかな」
「それは、私です。朝方まで、仕事をしていまして……」
「確か、メイドの大半は通いだと思ったけど」
「私は、住み込みで働かせてもらっています。ですので、他の方々に代わって仕事をすることが多いです」
「実家が、遠いんだ」
「……そうですね」
エイルの実家で働いている大半のメイド達は、王都やその周辺から働きに来ている。それは「代々同じ屋敷で働く」という事柄が関係しており、何より紹介状が不要であった。それにバゼラード家は名門一族なので、その屋敷に勤めているというだけで一種のステータスになる。
その中で、マナは特別な存在。どのような繋がりで住み込みのメイドになったのかは不明であったが、遅い時間まで働いているというのは真面目な証拠で、他のメイドより性格は大人しい。
これにより、ひとつ利点が生まれた。それは、簡単に物事を頼めるということであった。通いのメイドは、時間になれば帰ってしまう。それにメルダースの勉強ということで、エイルは徹夜を行いたいと思っていた。その時に何かを頼むことができるので、これほど便利なことはない。


