今回の王位継承の真実を知っている者は一部。無論、多くの国民は知らない。エイルの父親フレイは元王室親衛隊隊長なので、国の内情は大体把握している。しかし、息子――エイルには、表面の一部分しか話してはいない。エイルは親衛隊の隊員ではなく、生徒という身分だからだ。
だが、この国の王位継承や王家の内情は知っている。それは、父親の後を継ぎ親衛隊の一員にならなければいけないからだ。クローディアという国が置かれている状況。予想以上に、闇が深い。
エイルは、これ以上のことは口にしない。何も知らない人物に、感付かれてはいけないからだ。それにエイル自身、フレイ同様に物事を理解しているわけではない。それが歯痒かったが、感情として表面に表すことはない。それが無意味ということを心得ていたから――
「シェラ様は、大丈夫でしょうか」
「周囲には、優秀な人物がいるよ。それに、兄さんも……」
「そうですね」
「心配は……いらない。御免、暗い話になってしまった。そうだ、神殿に行こうと思っている。いいかな?」
暗い話は、短い方がいい。それに、気分が滅入ってしまう。エイルからの提案は気分転換と、信仰心の表れ。クローディアの国民は、信仰がとても篤い。女神エメリスの言葉は絶対的で、この国の象徴。無論この国の国民は、そのことに異論を唱える者は絶対にいない。
「はい。エイル様のお誘いなら……」
「何、その意味は?」
「いえ、深い意味は――」
「そう。それならいいけど」
それは意味深い台詞だったのでエイルは首を傾げていたが、いまいち本質を掴めていない。勉学や政治経済。それらに関して勘はいいのだが、他のことに関してはからっきし駄目であった。マナの態度の意味は、屋敷で働いているメイド達はエイルに肯定的な意見を持っている。
イルーズとエイルは、兄弟でありながら何処か違う。それは、否定的な意味ではない。兄イルーズは、生まれ付きの病弱。一方、エイルは健康面に問題はない。病弱が悪いというわけではないが、ついついエイルに流れてしまう。
しかし――
マナという女の子は根が優しいので、外見で物事を決める性格は持っていない。彼女がこのようなことを言った理由は〈メルダース〉という名前に、純粋に惹かれたからだ。一体、どのようなことを学んでいるのか。どのような生活を送っているのか。興味は尽きない。


