二人は出会った同士であり、雇い主の息子と普通のメイド。馴れ馴れしい態度を取ることはできず、尚且つ不必要な質問は彼女の性格を考えるとできなかった。それが影響し、沈黙が続く。
「本屋は、後で行くよ」
「は、はい」
「緊張している?」
「そのようなことは……ありません」
「それならいいけど。ああ、久し振りの故郷だから、散歩をしようと思っている。いいかな?」
「も、勿論です」
それは、質問として投げ掛けるには等しいものではなかった。そもそもメイドが、伯爵の称号を持つ人物の息子に異論を唱えることができるわけがない。しかしエイルは「一応」ということで、質問をしていた。それに相手がメイドだからといって、エイルは下に見ることはしない。
彼女達が仕事を行ってくれているからこそ、屋敷は清潔な風景を保っている。あの広い建物、エイルの家族だけでは掃除をすることはできない。だからこそ、メイドの存在は大きい。
エイルは、メイドの存在を有難いと思っている。ただ、マナは他のメイド達と違う何かを持っていたので、戸惑いを感じる部分が大きい。だが、徐々に打ち解けていけばいいと考える。
今のエイルは、それ以上の感情――特に特別の何かという物は持っていない。ただ、目の前の風景に魅入る。メルダースに入学してから、四年の歳月が経過した。クローディアの王都メルブローネは、何も変わっていない。同じ建物に、生きる住民も同じ。それに、時間の流れも同じ。
「……懐かしい」
「エイル様?」
「ああ、御免。少し、爺臭いね」
「あの……故郷を思うことは、大切です。クローディアは、本当に素敵な国です。ですので……」
「北国とは、思えない」
「本当に、そうですね」
「国を離れると、特にそう思うよ」
クローディアは、北国の小国。メルダースで有名なエルベ王国より北の位置に存在し、一年の大半が雪に覆われる極寒の地なのだが、人間が暮らすに不自由な土地ではない。鉱業や農業。それに牧畜に富み、エルベ王国を含め他の国々より豊かであった。その証拠に、小国でありながら財力は大国に匹敵する。


