無論、互いに血は繋がっていないが、マナは母親と同様に愛情を感じてしまう。それにリンダは真面目な女性だが、彼女は人間で完璧ではないので、時折暴走してしまう。それが、今回。リンダはメイドが絡むと、性格が変わってしまう。それだけ、彼女達を大切に思っているからだ。
その結果、ついつい厳しい態度で接してしまう。リンダは何か言いたそうな雰囲気であったが、これ以上の愚痴を続けていたらエイルが出発することができない。マナに対して不安要素は多かったが、リンダは仕方ないという素振りを見せつつ素直にエイルの言葉に従った。
「何時に、お帰りでしょうか」
「夕方には、帰ってくるよ」
「わかりました」
「では、行こうか」
その言葉と同時に、マナは再び頭を垂れる。そして顔を上げると同時に踵を返し、休憩室から出て行く。廊下に響くのは、二人の足音。その音を聞きながらリンダは部屋に戻ると椅子に腰を下ろし、仕事を再開した。
帳簿に、数字と文字を書き記していく。手慣れているので動きは素早く、計算も瞬く間のうちに行ってしまう。そして一通りの仕事を終了すると、メイド達の様子を見に行くことにした。
メイド達がリンダの姿を確認すると、姿が見えないマナは何処へ行ったのかと尋ねてきた。しかし、リンダは「個人的な用事を言い付けた」と言い、はぐらかしてしまう。エイルの用事で――と正直に言ってしまったら後々が面倒になると、長年の経験からわかっていた。
リンダの説明に、メイド達もそれ以上の質問を行うことはしない。それは、リンダの性格を熟知していたからだ。そして、彼女達は多少の疑問を残しつつ黙々と仕事を進めるのだった。
◇◆◇◆◇◆
エイルは真っ直ぐ、本屋に向かうとマナは思っていた。だが、エイルが歩いている方向は本屋と逆方向なので、どんどん距離が離れてしまう。一瞬「道を間違えているのではないか」と心配してしまうが、この地はエイルの故郷なので、数年の間で忘れるということは有り得ない。
それなら、何か目的があって何処かに向かっているのか。何も情報がないなかで答えを出すのは難しいので、この場合相手に尋ねるのが妥当だが、マナは恥ずかしいという感情が前面に立ち、ぎこちない態度になってしまう。だから黙って、エイルの後を続くしかない。


