ロスト・クロニクル~前編~


 その為メイドを連れて行く場合、彼女に一言報告しておかなければいけなかった。それは、互いの立場を尊重するものであり、トラブル防止でもあった。それに、報告は面倒ではない。

 しかしエイルは、この報告が苦手だ。あのリンダの迫力には、絶対に勝つことができない。それどころか、身が縮む思いがする。十代と五十代――人生経験は、圧倒的に違いすぎた。

 エイルは休憩室の前に到着すると意を決し、扉を叩く。そして数秒後――室内から声が聞こえた。

 扉を開きエイルが室内に入った瞬間、リンダは目を丸くしていた。てっきり、メイドの誰かが訪れたものと勘違いしていたのか、エイルの姿を見た途端、仕事を中断し椅子から腰を上げた。

「エ、エイル様」

「今、大丈夫?」

「はい。大丈夫です」

「マナを借りていいかな」

「それは、構いませんが……どのような、用事でしょうか。場合によりましては、お断りします」

「買い物だよ」

「買い物ですか」

「か、構わないかな?」

 その一言に、リンダの声音が一瞬にして変化してしまう。それは意図したものではなかったが、エイルは戦き辟易してしまう。それだけリンダの一言一言には、予想以上の迫力があった。

「いやー、本屋へ行こうと……」

「荷物持ちですか」

「そのつもり」

「それなら、仕方がありません」

「有難う」

「ところで、マナはどちらに?」

「いない?」

「はい、どこにも……」

「今、一緒だったはず」

 リンダの指摘に、エイルは後方に視線を向ける。一緒に室内に入ってきたと思っていた、そのマナがいない。多分、部屋の外で待っているのだろう。エイルは扉を開けると、廊下を覗き込む。予想通り、マナは廊下で待っていた。そして視線が合った瞬間、マナは悲鳴を発した。