エイルは、これ以上のことを語ろうとはしない。相手がメイドだからということはないが、他人に話して物事が良い方向へ進むことはない。それに、これは自分で何とかしないといけないからだ。
会話の終了後、エイルは厳しい表情を浮かべている。一体、何か考え事をしているのか――マナは、声を掛けにくかった。だが、怒っているのではなく、これがエイルらしい表情なのだ。
しかしそのことを知らないマナは、緊張してしまう。身体を強張らせ、エイルの言葉を待つ。
「そういえば、リンダは何処に?」
「休憩室に、いらっしゃると思います」
「そう……それなら、行こうか。それにリンダにこのことを話しておかないと、後々問題になるから」
「わ、わかりました」
先に退室したのはエイル。それに続くようにマナも退室すると、ゆっくりと扉を閉めた。彼等が向かうのは、メイドの休憩室。リンダは、メイド達を統括する立場に就く五十代の女性。長い年月この屋敷で働いており、主人夫婦の信頼は高い。また、相手が雇い主の息子であっても容赦はしない人物である。
そのようなことから、エイルはリンダという人物が苦手であった。だからといって、嫌いというわけではない。ただ、リンダが持つ年長者が放つ独特のオーラに負けてしまうのだ。
リンダを見ると、メルダースのクリスティを思い出してしまう。彼女の雰囲気は言葉で表すことができない独特なものであるが、彼女も似たような一面を持っていた。それは国を護る兵士を一喝で退けることができるという、信じられない特技を持っていることで有名である。
「エイル様?」
「だ、大丈夫」
「ですが、お顔が……」
「いや、本当に何でもない」
しかし、心の中と外見の素振りは違っていた。クリスティに雰囲気が似ていると同時に、他人に与える圧力も一緒。今、自宅にいるのだが、エイルにしてみればメルダースにいると一緒の感覚にあった。そして向かう場所は恐怖の部屋で、これ以上の最悪な演出は他にはない。
メイドを勝手に連れて行く。それは一見、好き勝手に行うことができると思ってしまうが、メイドの管理を行っているリンダは彼女達の行動の全てを把握しなければいけない。それは彼女達が無礼や非礼を行ってしまった場合、彼女が責任を取ることになっているからだ。


