失礼します――
か細い声音と共に、十代後半の黒髪を後方でひとつに纏めている少女が入室してきた。彼女は緊張しているのか、何処かオドオドとしている。それに青い瞳は潤み、泣き出す寸前。
勿論、エイルは彼女のことは知らない。メルダース入学後に働きはじめたのか、見知らぬメイドの登場に対応に迷う。それに多くのメイドが働いているが、この少女は他のメイドと違い大人しい雰囲気が漂う。
このような場面での振る舞いは、実に難しい。特に少女の場合、エイルは雇い主の息子に当たる。この場で失礼な態度を取り機嫌を損ねてしまったら、今の仕事が首になってしまう。
少女は、そのことを恐れていた。しかし自分が置かれている立場と役割を話さなければいけないと思い、少女は意を決し言葉として伝えていく。ただ言葉は片言で、尚且つ音量が小さい。
「……リンダ様の命令で……エイル様のお世話をすることになりました。宜しく……お願いします」
「そうなんだ。此方こそ、宜しく」
「は、はい。が、頑張ります」
「で、誰?」
突然の言葉の切り返しに、少女の頭の中は真っ白になってしまう。何を質問しているのか――少女は左右を見回し、質問の意図を探る。だが、混乱している脳では正しい答えを導き出すことはできない。その為、失礼とわかっていながらエイルに質問を投げ掛けることにした。
「名前だよ」
「マナと申します」
「そう……確か、初対面だよね」
「私が勤めはじめたのは……四年前になります。その時は、エイル様は……メルダースに……」
「だから……か」
「エイル様のお話は……聞いています」
相変わらず片言の言葉。途切れ途切れであったが、聞き取りにくいということはなかった。それでも、多少は不便である。エイルは困った表情を浮かべつつ、そのことを指摘することにした。
途切れ途切れに発せられる言葉は、緊張している証拠ということはわかっているが、暫くの間マナはエイルの世話係りとして働かなければいけない。エイルはメルダースでの生活が長いので堅苦しいやり取りが苦手であるが、メイドが目上の人物に対しての敬意を使わないわけにもいかない。


