ロスト・クロニクル~前編~


 身長と同時に、性格面も心配していた。無表情で、口数が少ない。このままではいけないとイルーズは思っていたが、エイルは見事に変わった。親衛隊の試験は実力によって合否が出されるが、それだけではない。何より精神面が重要で、軟弱な性格では王族を護れない。

 多少、黒い性格を有している方がいい。その方が、行動力が高いからだ。そして試験の結果は受けてみなければわからないが、精神面はこれなら問題定義とされることはない。イルーズにしてみれば身内の過大評価となってしまうが、エイルは試験に合格するだろう。いや、しなければいけない。

「しかし、本当に……」

「兄さん?」

「いや、戻ろう」

「う、うん」

「朝食は、残してはいけない」

「今は、違うよ」

「ああ、そうだった」

 兄弟が出会ったのは、昨日のこと。いまだに記憶が混同しているらしく、小さい頃のエイルと勘違いしてしまっている。互いの口許が緩む。そして肩を並べると、屋敷へ戻って行った。

 その後、使用人達が慌しく動き出す。

 これにより、屋敷は本格的な朝を迎えた。


◇◆◇◆◇◆


 今、エイルは自室に篭っていた。朝食を取った後、これといってやることがなかったからだ。試験の準備――そのことが脳裏に過ぎるが、傾向と対策という便利な教科書は存在しない。

 そもそも、そのような物で合格できるほど甘い試験ではない。メルダースで学んだことを、何処まで発揮することができるのか。全ては、それに掛かっている。無論、それだけのことを学んできた。

 今日から、二日後――

 考えただけで、心臓が激しく鼓動する。

 その時、控え目に扉が叩かれた。

 扉の方向に視線を向けたエイルは、唐突な音に首を傾げてしまう。一体、誰が。イルーズが、訪れたということはない。朝食前の会話で、大体の話が終わっていた。それに、残っている仕事を片付けなければと言っていた。それならメイドが来たのだろうと思い、エイルは相手を部屋へ招き入れた。