しかし内心では驚いていたらしく、ただ言葉として表現しなかった。物事に、一喜一憂する性格ではない。有する性格は、十人十色。ハーマンは冷静に見えて、身内を心の底から心配する。彼が、エイルの成長を喜んでいないわけがない。その証拠に、視線が穏やかであった。
まさか身長のことで、話が発展するとは――ふと、エイルは現代と過去の身長差が気になりだす。といって、その差は自分ではわからない。勝手に成長していたというのがエイルの考えであり、身長の差は他者に聞くしかない。この場合、目の前にいる自身の兄が適当であった。
「昔は、どれくらいだった?」
「そうだな……」
「悩むほどなの?」
「いや、そのようなことはない」
兄が指し示された場所は、腰の位置。その場所に、エイルは言葉を失う。この身長は可愛らしいという言葉で片付けられるものではなく、栄養不足が周囲に迷惑を掛けていただろう。
これは明らかに自身の管理が悪いのだが、メルダースに入学してから随分身長が伸びた。エイルは椅子から腰を上げると、互いの身長差を確かめる。その差は、頭ひとつ分というところであった。
「兄さんは、同じ」
「この年齢で、成長はしない」
「残りは、老化現状」
「……メルダースで、何かあったのか?」
「何?」
「毒を吐くとは……」
「色々と……ね」
二人の出会いは、運命に等しい。ラルフという人物が側に存在していなければ、エイルは暗い性格のまま卒業を迎えていた。毎日のように勉強を繰り返し、友を作ることはしなかった。ただ学力を上げることに集中し、周囲から「変わり者」と思われていたに違いない。
だが同時に「黒エイル」という名前も持っていた。お陰で、毒は普通に吐く。バゼラード家ではそのようなことは有り得ないが、例の人物――アルフレッドに出会ったら、一変する。
その時イルーズは、エイルの真の姿を知ることになる。愛らしい弟は、メルダースで変貌した。ラルフを無表情で張り倒し、往復平手打ち。こうなると、別人といった方が適切だ。一方エイルの成長によって、メルダースには平和な時間が流れているということは、間違いない。


