ロスト・クロニクル~前編~


「ま、待ってくれ」

「煩いです」

「俺は、自己紹介をしたんだ。其方も、自己紹介をしてほしい。名前くらい、聞いたっていいだろ」

「そうですね。名前は、エイルです」

 簡略的な自己紹介をすると、エイルは馬車に乗り込んでしまう。ファミリーネームは、言うことはしない。別に述べたところで差し支えはなかったが、おかしな繋がりを持ちたくなかったからだ。エイルの一族は、大きな力を持つ。それを目当てに近寄られたら、面倒だ。

 自己紹介をしてくれたことに、アルフレッドは満足そうな表情を浮かべる。そして何度も頷いて見せると、エイルの肩をバシバシと叩きはじめた。どうやら自己紹介が終えたことにより友人同士になったと思っているのだろう、馴れ馴れしい態度を取りエイルを困らせる。

「止めて下さい」

「いいじゃないか」

「嫌です」

 機嫌が悪いエイルは厳しい口調で言い放つと、エイルはアルフレッドを無視する形で馬車の中に乗り込む。その姿に良い考えが思い付いたのか、アルフレッドは鼻歌を歌いつつ何の躊躇いもなく馬車に乗り込んでしまう。

 唐突的な行動に、エイルは異論を唱える暇などない。アルフレッドは身体を椅子に埋めると、歯を見せながら笑い出した。しかしのんびりと寛いでいる暇はなく、エイルは攻撃を仕掛ける。

 それは、容赦ない脚蹴り。エイルは足の裏でアルフレッドの膝を何度も蹴ると、馬車から降りるように促す。だが、この攻撃が効いていないのか、アルフレッドは平然とした顔をしていた。その顔にエイルは、悔しそうな表情を浮かべ舌打ちすると、ラルフの顔が脳裏を過ぎる。

「な、何をする」

「それは、此方の台詞です」

「同じ方向に行くのだから、乗せていってくれたっていいじゃないか。これだけ隙間があるのだから」

「お断りします」

「いいじゃないか」

 その言葉に続きエイルは馬車の外を指で示すが、アルフレッドがそれに従うわけがない。乗り心地が気に入ったのか、自室で寛いでいるような態度を見せ我儘を言い出す。無論、出会ったばかりの人物に良くしてやる理由も義理もないので、とうとう怒りの限界を超えてしまう。