「で、名前は?」
「このような時って、質問者から――いや、すみません。俺の名前、アルフレッド・ベイセルだ」
「そうですか」
相手が名前を名乗ろうが、興味は湧かない。それを示すかのようにエイルは相手の自己紹介を聞き終えると、何事もなかったかのように踵を返してしまう。そして荷物を積んでいるハーマンに話し掛けると、自身は馬車に乗り込む。だが寸前で、アルフレッドと名乗った男がそれを止めた。
明らかにそれは意思を持って行っていたが、アルフレッドは笑って誤魔化す。しかし、身体は正直。エイルの服を掴み、引き戻そうとしていた。当然の出来事にエイルは不快感たっぷりの表情を作ると、反射的にアルフレッドの手の甲を摘み上げる。そして、徐々に力を込めていった。
「何でしょうか」
「い、痛いな」
「貴方が、悪いからです」
「だからって、抓ることはないだろ」
「時として、力も必要です」
「だからって、俺には困るな」
どうやらアルフレッドにラルフを重ねているのだろう、その対応方法はまさに黒エイルそのもの。もしこの場にラルフがいたら、泣きながら身体を震わせていたに違いない。それほど、迫力があった。
「僕は、相席は認めました。ですが、それ以上は認めていません。ですので、纏わり付かないでほしいです」
「これも、何かの縁と思って――」
「思いたくもないです」
そのように告げると更に力を込めて抓るが、その一撃のみで後は続かない。それは、思った以上の効果を見せた。反射的にアルフレッドは手を離すと、徐にその箇所を撫ではじめる。流石、手加減を加えない攻撃。抓られた箇所は赤く染まり、微かに腫れを見せていた。
「エイル様、積み終わりました」
「有難う。では、出してほしいな」
「わかりました」
荷物が積み終わったのなら、後は実家に帰るのみ。そもそも、このような人物に構っている暇などない。実家ではエイルの帰りを心待ちにしている人物が沢山いるので、無駄なことで時間を潰すわけにはいかなかった。だからこそ、エイルは先を急がせる。無論、ハーマンも同じだ。


