「お久し振りです。エイル様」
「有難う。助かるよ」
「いえ、これが仕事ですので」
互いに交わされたやり取りは短いものであったが、男を驚かせるには十分な効果があった。“様”と敬称を付けて呼ぶからには、高い地位にいる人物となる。しかしエイルは、何処にでもいそうな普通の少年。とても偉い人物には見えないが、ハーマンが恭しい態度を取るのだから間違いない。
男は頭を掻きつつどのように反応していいか迷うが、わけのわからない状況から正しい答えが導き出されるわけがない。それなら、確実な方法を取ればいいと男はエイルに尋ねていた。
「もしかして、偉い人?」
「何ですか、唐突に」
「いや、偉い人かな? と、思って」
「普通、自分でそのようなことは言いません」
「まあ、そうだよな」
相変わらず厳しい言葉に男は参ってしまうが、このようなことで負けていはいない。いやそれ以前に、負ける気などなかった。だからこそ、先程の口調を繰り返す。無論エイルの機嫌が悪くなるが、その前にハーマンが口を挟む。どうやら馴れ馴れしい態度が気に入らないのだろう、鋭い視線を向けた。
「貴方は、何者ですか」
「何者かな?」
「僕に、聞かないで下さい」
一方エイルは、呆れ気味だった。さっさとこの場から立ち去りたいのだが、男が放してくれない。それどころか相手はますますエイルに興味を抱き、笑みを浮かべながら此方に迫ってくる。
だがエイルと男の間に、ハーマンが割って入った。不審者を近付けたくないと思いで動いたらしく、男を睨み付けた。それは「威嚇」とも取れる行為であったが、男は気付いていない。
「名前は、何でしょうか」
「誰の?」
「貴方に、決まっております。不審人物ということで、捕まえてもらいます。これ以上――」
今度はハーマンが説教をはじめるが、このような場所で長々と説教を行なうと周囲に迷惑が掛かってしまうので、エイルはハーマンを制した。主人の息子にそのように言われたら、流石に従うしかない。ハーマンは渋々ながら引き下がると、荷物を積み込むことを伝えた。


