「立派ですね」
「だろ?」
やっと認めてくれたことに、相手はガハハハと大声で笑い出す。だが、それは見るに堪えない光景でもあった。笑う度に揺れるのが、上半身の筋肉。その怪しげな動きに、気持ち悪くなってしまう。
どのように鍛えたら、このような筋肉質の身体になることができるのか。様々な疑問が頭の中に巡るが、それを聞くことはしない。もし聞いた場合、長い説明が待っているだろう。
それを考えただけで、エイルは頭が痛くなってしまう。それに視界に入ってくる光景が、悪夢としかいいようがない。
溜息と共に、再び視線を横に向ける。今度は、別の目的があってからだ。窓の外に広がるのは、高く聳えた山々。その頂は万年雪がかぶり、まるで白砂糖によって化粧されたように思えた。
それは見慣れた風景であったが、長く国を離れていると懐かしいという感情が込み上げてくる。しかし、それに浸る暇などない。何故なら、エイルの目の前に座る人物が煩いからだ。
口から先に生まれてきたというのは、このような人物を示すのだろう。そのように思ってしまうほど、舌が滑らかだ。どうすればこのように喋るのだろうと、逆の意味で尊敬の対象である。
「で、これからどうするんだ」
「何がです」
「帰るのなら、一緒に行かないか?」
「何故、そうなるのですか」
「旅は、一人より二人の方が楽しい」
「嫌です」
反射的に、エイルは即答する。考える時間が勿体無いといわんばかりの素早さに、相手は目を丸くするが、すぐに復活を果した。どうやら冗談と受け取ったのだろう、筋肉を揺らし笑い出す。
「照れなくていいぞ」
「どうして、そのような考えに行き当たるのですか。僕は、恥ずかしいと思ったことはありません。勝手に、解釈しないで下さい。貴方の場合、勝手に解釈する癖があるようですね」
声を荒げたと同時に、エイルは視線を男に向けた。刹那、瞬時に視線をもとの位置と戻す。ピクピクと小刻みに動く筋肉に、生理的に嫌悪感を覚えたからだ。この世には気持ち悪いものが存在するというが、この筋肉が当て嵌まる。同性のエイルが嫌がるのだから異性が見たら、発狂ものだ。


