ロスト・クロニクル~前編~


 この姿を見た者は、誰も山百合だと気付かないだろう。いや、山百合と説明したところで信じてはくれない。マルガリータは完璧に、この世の植物ではなくなっていた。物語に登場する奇怪な植物と表現すればいいのだろう。ふと、同時に疑問が浮かぶ。それは、進化の過程だ。

 動植物は、環境の変化に対応する為に進化していくもの。このマルガリータは、特に劣悪な環境……とはいいがたいが、それなりに普通の環境で生活を送っていた。つまり、進化する必要はない。

 しかし、見事に進化を遂げている。このように隣に植わっていたキャシーを食べる時点で、マルガリータの身に何かが起こったと考えるのが利口だろうが、この答えは神のみぞ知る。

「どうするんだよ、こんなにしてしまって」

「勿論、育てる」

「個人的には、処分してほしいな」

 その意見に皆が同調するが、ラルフだけは違う意見を持つ。おかしな進化を遂げようが、可愛い植物には代わりない。それに一度死んだマルガリータが復活を果たしてくれた時点で、涙が溢れる。

 それを再び手放し葬り去ることなど、ラルフにはできなかった。それを証明するかのようにラルフは植木鉢を抱きかかえると、マルガリータを守った。こうなると、本当に植物以外友達がいないようだ。

「どうする?」

「何が」

「報告」

「一応、しておこう」

 報告の対象となるのは、ジグレッドであった。本来なら、植物を愛しているハリスが適切だが、報告した瞬間とばっちりを受けるのは間違いない。マルガリータの復活に立ち会った生徒は、涙ながらに語っていた。「あれは、本気で殺す勢いだった」つまり、ハリスに話してはいけない。

「俺達は、関係ない」

「そうだ! 関係ない」

「これは、ラルフが悪いんだ」

「追いかけてきたら、たまたま見たんだ」

「よし、それでいこう」

 この会話は、明らかにハリス対策になされているものであった。相手がジグレッドであったら、下手な言い訳をしなくてもいい。ラルフがおかしな植物を育てているのは、わかっているからだ。だが、問題は庭師のハリス。植物が関わると、関係ない人物にも怒りをぶつける。