可哀想なことに、これが現実である。
一方、身の危険を感じ取ったラルフは、自室に篭っていた。頭までスッポリと掛け布団を被り、身体を震わせている。いつもならこんな弱弱しい態度を見せないラルフであったが、何処かおかしい。エイルとの約束事が効いているにか、時折か細く間延びした悲鳴を発していた。
その時、複数の足音が響き渡る。次の瞬間ラルフは更に身を小さくすると、何度も同じ言葉を繰り返す。
来るな!
ラルフの心情が表れている言葉であったが、相手に聞こえるわけがない。もし聞こえていたとしても、聞き入れられることはないだろう。彼等の最大の目標は「ラルフに実験をさせる」であった。
バン!
激しい音をたて、扉が開かれる。その衝撃で扉が少し歪み、蝶番の一部が破壊されたが、誰も気にしていない。任務遂行の上で多少の犠牲は付きものなので、これらは些細な出来事にすぎない。
「ほら、迎えに来たよ」
「逃げ場はないね」
「い、嫌だ!」
「否定を言う権利はない!」
だが、ラルフは駄々を捏ねる。これは当然の権利であったが、彼等に通用することはない。恐る恐る掛け布団から顔を覗かせ、部屋の中にいる生徒達の顔を見つめる。すると生徒の一人が人差し指でラルフを指し示すと、ラルフがどのように思われているのか話していった。
語られる内容は、絶賛と肯定意見。しかしそれらは「ラルフを釣る餌」にすぎなく、全て嘘であった。いつもなら簡単に飛びつき引っかかるラルフであったが、今のラルフは勘がいい。
結果、簡単に嘘だと見破った。
「あれ? わかった」
「顔が笑っている。黒エイルと同じだ」
自身の不人気っぷりを知っての回答だと思っていたが、それは違っていた。日頃エイルにどのような仕打ちをされているのかわかる内容であったが、同時に周囲の視線に気付いていないことが判明する。今回はそれでラルフの身の安全が図られたが、相手にとってそれは関係ない。大勢の生徒が楽しめるのなら、彼の犠牲は尊いのも。特にそれがラルフの場合、誰も否定は述べない。


