「泣き止め」
これ以上、汚い分泌物で周囲を汚されたら堪ったものではない。そう判断が下されると、ラルフの頭が思いっきり叩かれた。パコっと乾いた音が響くのは、それだけ脳味噌が少ないという証拠なのか。するとその音に面白さを見出したのか、何度も一定のリズムを刻み叩かれる。
「おお、軽い軽い」
「この軽さで、あのような実験を行う。これって、凄いことだよな。天才って、本当にいるものだ」
「これは、天才って言わないよ」
「ああ、そうか」
「この場合は、阿呆だよ」
「それ、いいな」
今の言葉で納得できたのか、周囲にいた全員が一斉に頷く。実験には多少の犠牲はつきものであるが、ラルフの場合犠牲が大きすぎる。何より研究室ひとつをぶっ飛ばすのだから、その破壊力は凄まじい。
それを「天才だから」という言葉で片付けるわけにもいかず、破壊神という言葉が似合った。
「叩くな!」
「うお! こっち向くな」
振り向いた瞬間、唾液が飛ぶ。それを寸前でかわすと、お返しとばかりに攻撃を仕掛けた。それは手刀であり、見事にラルフの額へと命中する。そのエイルを髣髴させる動きに、拍手が送られた。
「虐めだ」
「虐めではないよ」
「そうだよ。ただ、爆発させてほしいんだ」
「そんなに……そんなに、エイルに怒られてほしいんだ。嫌だ! エイルに、怒られたくない」
「いや、そういうつもりじゃないけど」
この場にいられないと判断した瞬間、ラルフは泣きながら図書室から逃げ出してしまう。だが、廊下へ出る瞬間、笑いを忘れずに置いていった。流石、ラルフというべきだろう。何と扉の角に、全身をぶつけてしまう。それも顔面直撃というのだから、かなりの慌てっぷりを想像できる。
しかし、今のラルフに痛覚というものはない。ただ逃げることに精一杯になり、それ以上のことは考えられなかった。その為、鼻血が出ようが全身が痛もうが関係ない。その情けないラルフの姿に、全員が溜息をつく。そして人間離れしてしまった、わけのわからない行動を嘆く。


