「大丈夫!」
「エイルは、優しいから」
「そう、器がでかいよ」
「怒ったことは、滅多にないし」
「基本、穏やか」
口々に、良い点だけ述べられていった。余程、ラルフに実験をさせたいのだろう。満面の笑みの裏側に、どす黒い一面が見え隠れをしていた。しかし長年の実体験で、ラルフはそれを見抜いた。
その表情は、エイルと同じであった。彼は切れる寸前にこのような表情を見せ、時間の経過と共に水が沸騰していく。最終的に大爆発を起こし、素晴らしいほどの関節技が待っている。
「い、嫌だ!」
「何、叫んでいるんだよ」
「俺達が、守ってやるというのに」
「嘘だ! 嘘に決まっている。エイルは、器は大きくない。優しくもない。あいつは、悪魔だ!」
頭を抱え泣き叫ぶ姿は、いつものラルフとは違っていた。全身からは哀愁が滲み出ており、目の下には隈が浮き出てきた。間延びした叫び声は震え、とうとう泣き出してしまう始末。
どのような逆境に置かれようと、ラルフは不屈の精神で乗り越えてきた。だが相手がエイルの場合、それは違う。たとえ人間離れした肉体構造を持とうが、決して勝つことはない。
それどころか逆に痛めつけられ、肉体・精神共にボロボロの雑巾のようになってしまう。それを証明するのが、ラルフのこの姿。涙と涎と鼻水――液体という液体を全て外部に排出し、顔全体がおかしな光沢を放っている。そして顔を横に振る度に、それが周囲に飛び散る。
大切な本が、ラルフから分泌された液体によって汚れていく。それを見た生徒達は拳を作り、殴りかかろうとしていた。本を汚すなど、あってはならない。それにこれらは、重要な物として管理されているからだ。
それらを分泌液で汚すとは……知的財産を汚くした罪は重い。このことはすぐにジグレッドの耳に届き、それなりの処分が待っているだろう。無論、この本も処分しないといけない。
誰も粘つく液体が付いている本を、読みたいと思わない。ましてや、ラルフの涙と涎と鼻水。考えただけで、全身に蕁麻疹が浮き出てしまう。いやそれ以前に、触るという気が起きない。これを、どのようにして焼却場所まで持っていくか……しかし、名乗り出る者はいない。


