兄弟どちらかが親衛隊の一員になれば、バゼラード一族から排出したという名目が立つ。当初エイルは、親衛隊に入隊するのを嫌った。自由気侭な生活を送りたいと望んでいたが、結果はこのようなもの。やはり運命からは、逃れることはできない。故郷へ帰り国の為に働くのが、運命だった。
「合格を祈っている」
「有難う……ございます」
たとえバゼラードの名を継ぐ者であっても、簡単に入隊はできない。厳しい試験をこなし、晴れて親衛隊の一員と認められる。彼等は、王家の者を護るのが使命。生半可な能力では、逆に足手纏いになってしまう。
イルーズが入隊できなかった原因は、ここにあった。もし名前が参考基準となっていたら、彼は簡単に入隊していただろう。しかし、結果は不合格。つまり試験は、全て平等に行われる。
「どうした?」
「いえ、ちょっと……」
暗い表情を浮かべているエイルに、ジグレッドは心配そうに声を掛ける。だがどうしてこのような表情をしているのかわかっていた為に、ジグレッドにしては珍しく適当な言葉が見つからなかった。
親衛隊は、一部の人間しか入隊できない部隊。それを目指す者にとっては憧れの職業であり、渋る意味などない。しかしエイルは違い、夢を持ち目指せる対象とは大きく異なっていた。
だが、迷いはない。
「感謝しています」
「そう、伝えておこう」
「有難うございます」
無論、感謝の意はジグレッドに向けられたものであったが、エイルが本当に感謝したかったのは学園長であるクリスティ。彼女の存在がなければ、今のエイルは存在しなかったといって過言ではなかった。だからこそ恐れを抱いていようが、敬意の念は忘れることはない。
「では、僕は――」
「頑張りたまえ」
「……はい」
「しかし、無理はいけない」
その言葉を受け取ると同時に立ち上がり、深々と頭を垂れる。そして顔を上げた瞬間、迷いが消えた瞳でジグレッドを見詰めた。だが、互いに交わされる言葉はない。エイルは無言のまま荷物を持つと、何事もなかったかのように表情を浮かべつつ、部屋から立ち去った。


