ロスト・クロニクル~前編~


「何?」

「何って、つれないな」

「僕は、忙しいんだ」

「聞いたよ。実家に、帰るんだって。それで……」

「授業をサボるんだ」

 その鋭い一言に、ラルフは固まってしまう。エイルの帰郷に関しては、特別に許可を貰っている。一方ラルフの場合、どのように頼み込んだところで許可は下りることはなく、寧ろ怒られてしまう

 固まったまま動かなくなってしまったラルフを他所に、エイルはその横を無言で通っていく。すると急に復活を果したラルフは付いていけないと判断した瞬間、次の作戦に移った。

「お土産」

「金は?」

「エイルの奢り」

「お前に奢る金は、持っていない。じゃあ、行ってくるよ。夏のはじめには、帰ってくると思うから」

「俺は、待っているぞ」

 恋人との別れのような言葉を発するラルフに、エイルは物凄い形相で睨み付ける。するとラルフは「冗談」と発し、今度は手を振ってきた。だがもう片方の手はエイルの方に向けられ、ちゃっかりと土産を強請っている。

 しかしエイルは、ラルフに土産を買ってくることはない。そもそも、買ってくる理由も義理もない。毎日のように迷惑をかけている人物なのだから、逆に土産を貰わなければいけない。

 それに買ってきたとしても、それを大切にしてくれるとは限らない。あのようなずぼらな性格の所為で、小物など渡したら壊してしまう。といって、食べ物は痛みやすいので却下。

 どちらにせよ、渡すことはなかった。




 エイルは荷物を引き摺りつつ、ジグレッドの私室へ向かっていた。授業を休んで、実家への帰郷。無論ジグレッドは今回のことを知っていたが、きちんと挨拶に行くのは礼儀である。

 扉をノックし、中へ入室する。すると真剣な面持ちで仕事をしていたジグレッドは、エイルの姿を見た途端、口許に笑みを浮かべながらソファーに腰掛けるように進める。促されるかたちでエイルは荷物をソファーの近くに置くと、ソファーに腰掛ける。そして、真っ直ぐな瞳をジグレッドに向けた。