「はっ! こんなに汚れて――」
どうやらフランソワーが汚れているということを、今頃になって気付いたようだ。
その鈍感っぷりに、周囲から笑いがもれる。
そして、最高の噂話だと生徒達は好き勝手に話しはじめた。
「さらし者だぞ」
「だって、フランソワーが」
「汚れているのなら、後で洗えばいい」
「おお! そうだったね」
エイルの提案にポンっと手を叩くとポケットから小汚いハンカチを取り出し、フランソワーの身体を拭こうとする。
しかしその汚いハンカチに、フランソワーは拒絶の意思を表す。
口を大きく開け、威嚇のポーズを取る。
どうやら小汚いラルフに飼われていようが、汚い物は嫌いのようだ。
愛しいフランソワーの威嚇の意味をわかっていないラルフは首を傾げつつ、再び拭こうとする。
その瞬間、丸太のように太い尻尾を振り回し、それはまさしく拒絶反応そのもの。
「のお!」
左右に振られる尻尾が、見事にラルフの身体に直撃した。
一瞬、周囲から音が消えてしまうが――相手がラルフなので誰も助けようとはしない。
全員が、傍観者を決め込んでいた。
「な、何で」
「フランソワーは、汚いのが嫌いなんだって。お前も飼い主なら、少しは性格を理解してやれよ」
痛みで悶絶をするラルフに、エイルは容赦ない言葉を浴びせる。
その言葉に、一斉に周囲が頷く。
誰も、汚いハンカチで拭かれたいとは思わない。
それが人間以外の生物であろうが、汚い物を汚いと認識する感覚は一緒であった。
つまり、ラルフが常識から逸脱していた。
「俺は、綺麗だぞ」
「いや、そのハンカチが悪い」
ハンカチを指差して、説明していく。
だが、それに触れることはしない。
小汚い――いや、それは黄ばんだハンカチ。
元は、純白のハンカチだったと思われるが、今は見る影もない。
「そんなことはない。俺は……ああ、フランソワー!」
拭かれることを拒むフランソワーは、逃亡を図った。
短い手足を器用に動かし、物凄い速度で爆走している。
誰も、彼女を止める者などいない。
皆フランソワーの姿に戦き、言葉を失っていた。
逃げ出したフランソワーを追い掛けるように、ラルフは駆け出そうと足を動かす。


