ロスト・クロニクル~前編~


「何、食っているんだよ」

「ふえ?」

 エイルが示していたのは、唇の間から見える草であった。腹が減っていたのか、それとも無意識に食っていたのか。普通なら吐き出すところであるが、何とラルフは飲み込んでしまった。

 想像を絶する光景にエイルは戦き、息を呑んでしまう。確かに人間は雑食といわれているが、食が豊かなこの時代。草を食べて生活を行う人間がいたとは――いや、ラルフだけが特別か。

「そんな物、食うなよ」

「だって、吐くなって」

「それとこれは、別問題だ!」

 危険と判断したエイルは、ラルフの胸倉を掴むと思いっきり身体を振り出す。その強烈な攻撃に、ラルフの身体はおかしな方向に曲がってしまうが、エイルは気にしてはいられない。

 それどころか「草を食べる」という行為を止めさせたく、懸命に正しい食生活のあり方を説いていくが、ラルフの耳には入っていない。それ以前に、強烈な攻撃に気絶してしまったのだろう、白目をむいている。

 反応を見せなくなったラルフにエイルは舌打ちをすると、ラルフが激突した木の根元に彼を寝かす。このままにしておけばいずれは復活を果たし、回復力は野生生物といい勝負なのだから。

 エイルはラルフの横に座ると、卒業試験の様子を見学する。流石に先程の件があってか、厳重な注意が払われている。卒業試験特有のピリピリとした雰囲気に合わさり、別の意味での緊張感が走る。

 そしてこの結果が言い渡されるのは、これから一週間後のこと。それにより、生徒の運命が決定される。

 人生、泣き笑い。まさに、人生の山場であった。


◇◆◇◆◇◆


 卒業試験が終了した翌日、エイルは旅支度をしていた。皮製の鞄に詰めていくのは、最低限必要な私服類。それに旅に必要な小物と、意外に量が多く鞄に入れるのが大変であった。

 これから、長旅をしないといけない。それなりの準備をしておかなければ、苦労するのはエイル自身。何より、クローディアまでの道のりは遠い。付き添いがいれば少しは楽だと思われるが、今回はエイル独りでの帰宅となっている。それに、山を越えないといけない。