ロスト・クロニクル~前編~


 事実ではないことにホッと胸を撫で下ろすと、ラルフは身体を起こしていく。しかし、ラルフに幸福が訪れることはない。何と、エイルの言葉が現実となってしまったのだ。まさにこれは、予想外だった。

 飛んできた魔法にエイルは小声で呪文のようなものを唱えながら、反射的に利き腕となる右手を突き出す。その瞬間、物凄い音が響き渡った。それは、ドンっという何かがぶつかり合った音。

 聞きなれない音にラルフは悲鳴を上げながら、身体を小さくする。だが、エイルが守ったのは自分自身なので、ラルフは爆風に吹き飛ばされてしまった。可愛らしい悲鳴を上げながら、草の上を転がっていくラルフ。そして巨大な木の根元にぶつかり、彼の転がりは止まった。

 周囲に立ち込める砂埃が、時間の経過と共に治まっていく。エイルは自身の身体が傷ついていないことを調べると、制服についた砂埃を叩きつつ周囲がどのような動きをしているのか確かめた。

 突然の爆発に驚いている生徒が大半であったが、どの生徒も怪我がなく無事だった。どうやら被害はエイル周辺だけで済んだのだろう、爆風によって一部の草花が吹き飛んでいたがそれ以外は何事もない。

 いや、被害は存在していた。それは巨木に激突した、ラルフの姿が視界に飛び込んだのだ。しかし、誰も救いの手を差し伸べない。それ以前に存在そのものを忘れられているのだろう、情けない姿のまま倒れていた。

「た、助けて」

「何をしているのかな?」

「飛ばされたんだよ」

「はあ、運がないね」

 頭を地面につけ、両足を空中に向けて伸ばしている姿。どうすればこのような体勢になるのだろうと、エイルは首を傾げてしまう。このような姿を見た場合、真っ先に「助ける」という言葉が思いつく。

 だが、エイルは動こうとはしない。その理由は、卒業試験を行っていた教師と生徒が近付いてきたからだ。

「大丈夫か?」

「平気です。怪我は、ありません。あちらに転がっている人物のことは、気にしないで下さい」

「そ、そうか。それなら、いいが」

 エイルの言葉に、教師は胸を撫で下ろす。もし怪我を負わせていたら、この教師の責任になってしまう。そして、学園長の厳しい言葉が待っている。無論、魔法を使った生徒も同罪だ。それ以前に、ラルフのことは眼中にない。試験を行っていた教師も、ラルフはどうでもいいらしい。