「フランソワーだ」
「な、何!」
“フランソワー”という名前を聞いた瞬間、ラルフは興奮しながら周囲に視線を走らせていた。
それはまるで、愛しい相手を捜しているような姿で切ない。
しかしその光景にエイルは、何も言えないでいた。
呆れるというより見放すに近く、この不可思議な状況に言葉が出ない。
刹那、フランソワーの甲高い鳴き声が聞こえた。
その声に「オオトカゲは鳴いたか?」と疑問に思うエイルだったが、飼い主がラルフだから特殊な現象が起こっても不思議はないと自己解決する。
その直後「フランソワー」という叫び声――というより狂った奇声を発しながら、ラルフは走っていった。
どうやら直感でフランソワーの危機を感じ取ったのだろう、それに鳴き声を聞き分けるとは恐ろしい。
どのような聴力をしているのか調べてみたいが、流石にラルフを解剖するわけにはいかない。
見捨てるわけにはいかなかったので、エイルは全力疾走で廊下を走るラルフの後をついて行くことにした。
フランソワーがいた現場は、それほど離れてはいない。
エイル達がいた場所から数メートルという距離だろう、しかし多くの生徒が一か所に集まっているので動き難い。
何かを中心に作られている人垣。
エイルはその先頭へ行くと、とんでもない光景を目撃する。
何と、ラルフがフランソワーと熱い抱擁をかわしているのだ。
その瞬間、エイルは激しい脱力感に襲われた。
「お、お前等……」
感動の対面と言うべきか、フランソワーを抱き締めるラルフの表情がとても幸せそうであった。
怪しい二人の関係を静かに見詰めるエイルは、おかしなモノを見るような目線を向ける。
昔からラルフのおかしな性格を知っていたが、改めてそれを目の当たりにすると唖然となってしまう。
それは、エイルだけではなかった。
周囲にいた生徒達は皆、同じ考えを持ち全身に鳥肌が立つ。
おかしな奴。
誰もこの答えに、異論はない。
寧ろ、全員が同意する。
「こんな所にいたのか。捜したよ」
自身の飼い主の登場に、フランソワーも嬉しそうであった。
それに何か怖い思いをしたのか、引き千切れんばかりに尻尾を振りながら、ラルフに甘えている。
これはこれで可愛いと思えたが、オオトカゲに懐かれたいとは正直思わない。
無論、周囲にいた者達も同意見だった。


