ロスト・クロニクル~前編~


「あそこは、半日もいるような場所じゃない」

「それは、人による」

「だから、本の虫と呼ばれるんだ」

「別に、悪い呼び名とは思っていない」

 エイル自身も自分が「本の虫」ということは、自覚していた。

 それにそのように呼ばれるということは、それだけ勉強を頑張っているという証拠。

 この言葉は、メルダースでは褒め言葉となる。

 そのことを知らないラルフは「暗い」や「引き篭もり」と貶していくが、同時にラルフの勉強方法を明らかにするものであった。

 知識を得たいというのなら、それなりの本を読まなければいけない。

 しかしラルフは滅多に本を読まず、読むとしたら教科書くらいなので、彼の知識に妙に偏りが生じてしまった。

「で、行くの?」

「……行かない」

「なら、買い物に行ってくるよ」

 それだけを言い残すと、エイルは部屋から出て行こうとする。

 すると反射的に、ラルフがその動きを制した。

「何?」

「な、何でもない」

「お土産くらいは、買ってきてあげるよ」

 いつもなら嬉しそうな反応を見せるラルフであったが、今回は落ち着きがない。

 それを見たエイルは「行きたいんだ」と、相手の考えを読む。

 すると思った通り、ラルフはピクっと身体を震わせ反応を見せた。

「本屋でいいんだ」

「俺は、本屋には行かない。他の店に行く」

「やっぱり、行きたいんだ」

 ラルフの本音がわかった瞬間、エイルは肩を竦めていた。

 行きたいというのなら、素直にそのように言えばいいのだが、強情な一面を有するラルフが素直に認めることはしなかった。

 それに行くというのなら、それなりの覚悟をしなければいけない。

 他の店に行くといっても、帰りはエイルと一緒。

 つまりどのような行動を取ろうとも、エイルの荷物を持つ破目になる。

 そのことに気付いていないのは、流石鈍感のラルフというべきか。

 それ以前に、外出許可が下りるかどうかわからない。

 ラルフにとっては、此方の方が問題定義として大きいだろう。

 ラルフの不真面目な一面は、教師の間では悩みの種となっているので、期待はできない。