ロスト・クロニクル~前編~


「合格しやがったか」

「凄いでしょ?」

「凄いね」

「もっと褒めてほしいな」

 両手を上げその場で跳ねながら喜ぶラルフは、どうみてもエイルより年上とは思えなかった。

 といって、怒る気力は湧いてこない。

 紙に書かれていた「合格」という文字に、世の中の理不尽さを嘆いた。

 これでまた、一年一緒ということになる。

 しかし卒業できるかどうかは、今はわからない。

 最後の望みは、其処しかないだろう。

 こうなれば何が何でも一発で合格し、メルダースを卒業しなければいけない。

 だが、最大の難関と言われている卒業試験。

 今回のように、運では合格はできない。

 この瞬間、エイルの目標が決まった。

 ラルフと別れることができるというのなら、何でも行う。

 たとえそれが徹夜の回数を増やそうとも、エイルには関係ない。

 ただ、目標に向かって突き進む。

「ラルフの合格がわかったことだから、僕は買い物に行ってくるよ。欲しい物が、あったりするから」

「あれ、外出していいのか?」

「お前と違って、僕は真面目だから」

 言葉の端々に隠された、鋭い刺がラルフに突き刺さる。

 真面目――それはラルフにとって、無縁の言葉であった。

 エイルのように真面目な生徒の場合、明確な理由があれば簡単に外出許可を貰える。

 一方ラルフのような不真面目な生徒は、簡単には外出許可は貰えない。

 このような場合、日頃の行いがダイレクトに反映される。

「ご飯を食べに行くということで、俺も……」

「それは無理だね」

「エイルだけ、楽しませないぞ」

「本屋に行きたいのか?」

「……本屋?」

 行き先が告げられた瞬間、ラルフはエイルから視線を外していた。

 ラルフは本が嫌いというわけではないが、以前とんでもない体験をしていたからだ。

 それは、一年前に遡る。

 エイルがどのような本を読んでいるのか。

 そのような好奇心から、買い物に同行したことがある。

 それは、不幸のはじまり。

 何とエイルの買い物は、半日も要したのだ。

 それも大量に本を購入し、半分ラルフが持ち運ぶことに。

 それからラルフは「本屋」という単語に過剰に反応するようになり、エイルの買い物――特に本屋へは一緒について行くことはなくなった。