ロスト・クロニクル~前編~


 ラルフが問題を起こすたびに「退学しろ」という殺意に満ちた視線が、向けられている。

 しかし、本人は気付いていない。

 気付いていないからこそ、おかしな植物マルガリータの復活を喜ぶ。

「マルガリータちゃんは、俺の為に戻ってきたんだよ。窓から落とされようが、彼女は強いのだ」

「そうだね」

「これからキャシーちゃんと、仲良くしてもらわないといけない。一緒に、成長してもらおう」

 爽やかな笑みを浮かべるラルフに、エイルの顔が蒼褪めていく。

 ラルフの笑顔――まさにそれは、最終兵器という名に相応しい。

 気分が悪くなりつつあるエイルは壁に凭れ掛かると、心の中で「留年しろ」と願った。

 ラルフが留年すれば、エイルにとってこれほど喜ばしいことはない。

 後は真面目に勉強を続けて、一発で卒業試験に合格する。

 そして国に帰ってしまえば、それ以上の付き合いはない。

 これから先の計画を頭の中で練ると、エイルも同じように爽やかな笑みを浮かべる。

 全ては、これからわかる進級通知。

 この合否によって、ラルフとの付き合い方が変わるからだ。

 ラルフが不合格であったら、まずはいたたまれない姿を慰める。

 だが独りになった時に、嬉しさのあまり大笑いする。

 ラルフと付き合いはじめて四年の歳月――そろそろ、限界だった。

「お前は、本当に平和だな」

「いつも平和だよ」

「能天気なくらい」

「そ、そこまで言うか」

「言うよ」

「ひ、酷い」

 このようにキッパリと言われたら、反論し難い。

 ラルフは戦っても無駄と判断すると、マルガリータとキャシーが植わっている鉢植えを抱き締める。

 そしてそのまま、窓際に持っていく。

 爽やかな日差しを浴び、スクスクと育っていく植物達。

 これからどのような成長を遂げるかわからないが、良い方向へと運んでいくわけがない。

 最悪の場合、他の人達に迷惑をかける。

 鉢植えを奪い取り、そのまま投げ落とす。

 それが最善の方法だろうが、それを行った後マルガリータは進化して帰ってきた。

 再びそれを行った場合、マルガリータが更に進化して帰って来る可能性が高い。

 また、進化はマルガリータだけではなく、キャシーも進化したら――それはそれで恐ろしい。