ロスト・クロニクル~前編~


 左右の瞳の色が違うということだけで、優れた身体能力を持っているわけではない。

 だからこそ突然変異は、ある意味で正しい意見。

 この世界の住人は、全て己が持つ属性が瞳の色として現れる。

 炎なら赤、水なら青というように、一目で相手の属性を知ることができる。

 無論、ラルフはそのことを知らないとおかしい。

 地理の授業で、そのことを学んでいるからだ。

 ラルフはそのことを完全に忘れていた。

 現に、エイルのオッドアイが怖いと思っている節がある。

 前後左右、様々な角度からエイルの顔を観察する。

 余程オッドアイが珍しいのか、時折「ほえー」という間の抜けた声を発し、勝手に納得していた。

 その怪しい行動に、エイルの背中に冷たいものが流れ落ちた。

「な、何だよ」

「エイルって、やっぱり女顔だね」

「何度も言うな」

 その瞬間、ラルフの腹に拳が入れられた。

 禁句とわかっていながら、その言葉を敢て口にする根性の持ち主。

 流石のエイルも呆れてしまい、問答無用の攻撃を繰り出す。

 学習能力の乏しさ――それがラルフの致命的な部分であったが、それが改善されることはいまだにない。

「……冗談だよ」

「それでも、許さない。こうなったら、フランソワーに八つ当たりをしてやる。飼い主の責任だからな」

「そ、それは……」

「いいだろう」

「いやー、今は……」

 痛む腹を押さえつつ、フランソワーにだけは手を出さないでほしいと懇願する。

 しかしあのような危険生物を、無傷で捕まえることは難しい。

 最悪の場合、気絶をさせ捕獲すればいいだろう。

 そう提案するエイルであったが、間髪いれずにラルフは否定の言葉を発する。

「フランソワーちゃんは――」

「フランソワーは?」

「フランソワーちゃんは、妊娠しているんだ!」

「はい?」

「本当だぞ」

 爆弾発言とも取れる内容に、エイルは間の抜けた声を発してしまう。

 そして上手く聞き取れなかったとばかりに、何と言ったのか再度聞きなおす。

 だが、返ってきた言葉は同じであった。

 フランソワーが妊娠……エイルは、笑うしかない。

 そして同時に、恐怖を覚えた。