ロスト・クロニクル~前編~


「な、何だこいつ」

「ラルフは、こんな人間だよ」

「人間じゃないだろ」

 怪しい動きを見せるラルフに対し、冷たい言葉が投げ掛けられる。

 この言葉こそ、ラルフが周囲からどのように見られているのか明確にするもので、決して優しい言葉がかけられることはない。

 ただ向けられる視線は哀れみが含まれ、どのような教育を受けてきたのか疑問になる。

 しかし、その答えを知りたい生徒はいない。

 そのようなことに興味を持っても、特になることがないからだ。

 それに知りたい場合ラルフと友達にならないといけないが、流石それは御免蒙る。

「起きろ! そして、行け」

「無理じゃないかな」

「人間離れした動きをしているし」

「なら、こうするか」

 エイルは徐に利き腕を振り上げると、力任せにラルフの頬を叩いた。

 部屋の中に、乾いた音が響く。唐突な行動にエイルの後ろにいた生徒達は戦くも、注意はしなかった。

 これもまたいつもの出来事なので、楽しんで見る生徒も多かった。

 その証拠に、全員が笑っている。

 続いて、逆の方向から叩く。

 すると二回目の攻撃で目覚めたのか、身体の震えが止まった。

 だが震えが止まっただけで、何も言ってこない。

 「行くか行かないか」その答えを聞きたいエイルは、今度は額を叩いた。

「エ、エイル……」

 両頬と額を赤く染めるラルフは、シクシクと泣きはじめる。

 今までの攻撃が効いたらしく、涙で濡れる瞳でエイルを見つめていた。

 その気持ち悪い姿に、誰もが苦笑いを浮かべている。

「行くよ」

「嫌だ!」

「嫌だと言っても、連れて行くよ」

「ハリス爺さん怖い」

「行かない方が、もっと怖いぞ」

「そ、それは……」

「今日で、人生終わりだよ」

 その台詞に全員が頷き一斉に動くと、ラルフの身体を担ぐ。

 どうやら、最終手段を取るしかないと判断したようだ。

 どのように説得しても、行く素振りを見せない。

 それなら、無理矢理連れて行くのが一番の方法だ。

 それに、この方法を用いた方が後々面倒にならない。