流石、メルダースの学園長というところか。
立ち振る舞いだけで相手を威圧できるというのだから、彼女に逆らえる人物などいない。
一国の王でさえ跪いたという噂もあるほどだ。
「あら、静かね」
細く長い指で、前髪を掻き揚げる。
指と指の間を流れるように滑る髪が光を反射させ、クリスティを更に美しく見せた。
それは、地上に舞い降りた美の女神と表現できるだろう。
しかし彼女の本当の恐ろしさを知る多くの者は、首を横に振る。
そして言う、彼女は悪魔だと――
老いを知らない身体は、歯向かった者達の生気を奪っている所為だ。
何とも怪しげな噂を持つクリスティであるが、その容姿とスタイルを見れば誰もがそう思ってしまう。
大半が彼女の攻撃に敗れた者達が流した嘘であるが、同性からの妬みや嫉妬がないわけでもない。
クリスティはそれらを軽くあしらい、笑いながら反撃をするという。
嫉妬によっての攻撃は、自滅を招く。
だからこそ心の中で憎らしいと思っていても、言葉と動作に表す者はいない。
だからこそ、クリスティが近づいてきたら逃げるという方法を取る。
その言葉が表すように、彼女の周囲には誰もいない。
まるで、彼女の周辺に結界が張られているような感じだった。
「ねえ、貴方?」
「は、はい」
運悪く近くにいた生徒が、捕まってしまう。
襟首を鷲掴みに自分の横に引き寄せると、妖艶の笑みを浮かべながら盛り上がらない理由を問う。
だが、生徒は何も答えることはない。
身体を震わせ、クリスティから漂うオーラに必死に耐える。
いや、彼は泣いていた。
声に出さないが、頬に大粒の涙がこぼれていた。
その姿に誰もが同情し、心の中で思う「可哀想に」と――
答えを得られないことに、クリスティは新たなる獲物を探す。
その瞬間、視線を合わせないようにと、生徒達全員が一斉に横を向く。
一糸乱れない動きに、クリスティという女性の恐ろしさを表していた。
しかし、その中に一人だけ違う動きをする生徒がいた。
それはエイルであり、皆とは違い身体を低くしテーブルの影に隠れる。
そして懸命に足を動かし、会場の隅に逃げていった。
生徒の中にはその行動に気付いている者もいたが、仲間を売ることはしない。
これも、日頃の行いがいいからだ。
もし相手がラルフであったとしたら、有無を言わさずクリスティに売られていた。
生徒達は自分の身の安全を図ることを優先する。そう、時として尊い犠牲は必要だ。


