エイルが皿と睨めっこをしているその時だった、周囲に不穏なざわめきが走ったのは。
生徒達は一点を見つめ、小声で何かを話している。
中にはか細い悲鳴を上げ、逃げる生徒もいた。
不思議な光景にエイルは首を傾げてしまうが、すぐにその意味を知る。
それは漂う怪しい気配に、身体が反応を見せていた。
怖い恐ろしい――それら全てが、一気に押し寄せてきた。
「皆さん、楽しいんでいるかしら」
その声音に、エイルはテーブルの上に置かれた食器を落としてしまう。
パーティー会場に響く乾いた音。
しかし、誰もその音に振り向くことはなかった。
そう、それほど姿を見せた人物が強烈なのだ。
「何、そんな顔をして。今年最後のパーティーは、楽しみましょうね。ほら、盛り上がりなさい」
逆らうことのできない圧倒的な迫力に、全員が一斉に頷く。
だが「楽しむ」と言われても、心の底からは楽しむことはできない。
皆どこか余所余所しく、酒を飲んでいた者は酔いが醒めてしまった。
パーティー会場に現れた人物――
それは、メルダースの学園長ジル・クリスティ。
年齢不詳の美貌とスタイルは、相変わらず健在。
それどころか、暫く見ない間に磨きがかかったように思える。
エイルは学園長の登場に、渋い表情を作る。
彼にとってクリスティは、苦手というより近づきたくない存在。
長い年月を生きている者だけに発せられるオーラに、負けてしまいそうになる。
腰まで伸ばされた赤髪が、動くたびに波打つ。
それはまるで燃え盛る炎の如く美しく、それでいてどこか神秘さを感じられた。
瞳もまた髪と同等の色彩を持っており、此方は血で染めたような深みが怪しさを醸し出す。
細く華奢な体系で、無駄な贅肉を持たない完璧なスタイル。
それは女子生徒の憧れであり、彼女の性格を知らない者なら一瞬にして虜になってしまう。
身体のラインを強調した服が何とも艶かしく、丈の長いスカートにスリットが入っていた。
其処から覗き見る脚は美しく、白い肌にはシミひとつなく妖艶という言葉を生み出す。
形の良い唇が緩みクスっと笑みがこぼれるが、誰もその笑いには釣られない。
寧ろそれどころか、周囲が一瞬にして凍りつく。
彼女のその笑みに、何人の者達が泣かされてきたことか。
いつからか赤という色彩は、彼女を示すようになった。
〈赤い魔女〉と呼ばれ、多くの者から恐れと同時に尊敬の眼差しで見られるようになった。
外見上穏やかな性格と思われるらしいが、本当のところは違う。
悪を行う者は嫌い、何ともわかりやすい性格の持ち主なのだ。


