動いてはいけない――本能的にそのように察すると、エイルに逆らったことを激しく後悔する。
しかしそれは一時的なことで、暫く経てば完全に忘れてしまい再びエイルに怒られる。
そのことを知っているエイルは、壁を殴った以外のことは何も行わなかった。
怒りすぎては、耐性が付いてしまうからだ。
振り返ったと同時に見せた、エイルの表情。
それはあまりにも恐ろしいもので、悪魔のような形相。
その瞬間、ラルフの背中に冷たいモノが流れ落ちる。
「謝らなければならない」と思考が働くも、言葉に表すことができない。
何故なら、ラルフは半分気絶をしていたからだ。
口から魂が抜けかけているラルフに、これ以上かける言葉などない。
エイルは音をたて扉を閉めると、一人で食堂に向かった。
一拍置いた後、ラルフの悲鳴が轟く。
余程の恐怖を味わったのか、それはこの世のものは思えない悲鳴であった。
その長い悲鳴が響いた後、静寂が訪れる。
どうやら、意識を手放したらしい。
悲鳴を聞き付け、周囲が騒がしくなる。
ラルフの悲鳴に大勢の教師と生徒が集まり、何が起こったのか状況を把握しようとする。
だが、エイルには関係がなかった。
何事もなかったかのように涼しい表情を見せながら、駆けつけたクラスメイトと対峙する。
何があった――
その質問に対し、エイルは淡々と答える。
何もないよ。
その言葉に不思議に思うクラスメイトであったが、それ以上の追求は行わなかった。
何故なら、担架で運ばれるラルフが目に入ったからだ。
口を半開きにし、気絶しているラルフ。
相当な恐怖を味わったのか、顔が真っ青だ。
「うわ! 凄い」
誰かがそう言葉を発するが、誰の心にも同情は湧かなかった。
所詮はラルフ――その考えが、皆にはあった。
パーティー前のトラブルであったが、簡単に処理されてしまう。
これもまた「ラルフが関係しているから」という理由であったが、反論する者はいない。
何故なら、追求すると面倒だからだ。
そして、大勢の生徒が待ち望んだパーティーが開始された。
◇◆◇◆◇◆
優雅で気品が漂う――という形容詞が似合わないパーティーは、開始早々白熱していた。
どの生徒達も腹を空かせ、いまかいまかと待ち望む。
それを邪魔するかのように長々と続けられているのはジグレッドの話であるが、大半の生徒は全く聞いておらず一点に集中する。


