「ひとつ聞きたいことがあったんだ」
「プライベートな質問は却下」
「誰もお前のプライベートなど、知りたいとは思わない。別のことを聞きたいんだ。いいよな」
「も、勿論です」
ラルフのプライベートなど、知る必要などない。この「知る必要などない」という考えは、エイルだけではなく大勢の生徒がそのように思っている。
あの魔導研究会もそう思っているだろう。
しかし、これだけは聞かなければいけなかった。
本当にボケたのか。
エイルにとって、それが心配の種であった。本当に記憶が飛んでいたらこれから先、優しくしないといけない。
ラルフに優しく――それを考えた瞬間、全身に鳥肌がたち気分が悪い。
「なあ、記憶喪失って本当か?」
「何、その記憶喪失って」
「ほら、昼前の話だよ。お前、少し前の記憶を失っていたじゃないか。あれから、気になってね」
「あっ! あれね……」
記憶を手繰るかのように、暫く考え込む。
するとあのことを思い出したのかポンと手を叩き、のほほんという表情を作る。
そしてポンポンっと頭を軽く叩くと「冗談」と、一言言う。
「冗談?」
「そう、いつものお返し。だって、口と技では勝てないじゃないか。だから、嘘をついて……」
嘘とわかった瞬間、エイルの身体は怒りで震える。
だが、今回も手を出すことはなかった。
半笑いをしながらゆっくりとした動作で立ち上がると、ラルフを見下す。
黒オーラ全開となったエイルを、止められる者はいない。
それに、相手はラルフ。
この先に待っていることは、予想できた。
それでも、エイルは何も行わない。
彼は徐に踵を返すと、部屋の隅に行く。
次の瞬間、物凄い音が響いた。
ボコ!
その鈍い音にラルフは音が鳴った方向に歩いて行くと、身体を丸くしエイルの動きのひとつひとつを見ていく。
そして判明したのが、エイルが壁を殴ったということ。
まさかこのようなことをするとは思っていなかったラルフは息を呑むと、機嫌が直ることを必死に祈る。


