ロスト・クロニクル~前編~


「つまらないな」

「へえ?」

「最近、パターンが同じになってきたし。そういう訳だから、殴るのを止めた。で、手伝わないから行く」

 殴るという行為を行わなかったが、毒舌は相変わらずであった。

 それだけを言い残すと、意味ありげな笑みをラルフに向ける。

 そして、無言のまま立ち去っていく。

 その瞬間、ラルフは悲鳴を上げた。

 パニック状態に近いラルフ。

 キャシーが植わっている鉢植えを抱き締めると、身体を震わせながらブツブツと何かを呟きはじめた。

 無論この行為は、傍から見れば怪しすぎる行動。

 お陰で、寮の管理人に冷たい目で見られてしまう。

 それは管理人だけではなく、通りすがりの生徒も同じような反応を見せる。

 その結果、ラルフの新しい噂話が生まれたことは間違いない。

 ある意味で、それは伝説に等しかった。


◇◆◇◆◇◆


 夜の帳につつまれた時刻、エイルは勉強を終えた。

 ラルフと別れた後真っ直ぐ図書室に向かい、この時間まで勉強を行っていた。

 長時間椅子に座っていた影響だろう、腰痛に悩まされる。

 椅子から腰を上げると伸びをし、勉強に使用していた本を片付けていく。

 雪の季節は周囲から音が消えるので、辺りは静かだった。

 何気なく窓に視線を向けると、白い綿のような物が窓についているのに気付く。

 集中して勉強をしていた為に気付かなかったが、どうやら日が落ちると同時に降り出したようだ。

 ふとその時、ラルフの顔を思い出す。

 寒いことが苦手な彼、今頃布団の中に違いない。

 パーティーがはじまれば食べ物に釣られ起きてくるかもしれないが、それまでの間部屋に閉じこもっている。

 このまま眠り続けてくれれば有難いことであるが、変死でもされたら困る。

 ラルフが死んだ場合、真っ先にエイルが疑われてしまう。

 最近、殴る・叩くという行為は行っていないが、関節技をかける回数は増えた。

 その後遺症で、別の世界に旅立つかもしれない。

 その時、本を片付ける手が止まった。

 ラルフの記憶が飛びやすい体質――これに関節技が深く関係しているとしたら、ラルフに大変失礼なことをしてしまった。

 これによってラルフの今後の人生を左右してしまったら、後々問題に発展する。

 最悪、一生面倒を見ないといけない。