ロスト・クロニクル~前編~


『研究者は多方面から物事を見て、新しいモノを生み出していく。よって、おかしな思考の持ち主もいてもおかしくはない。ユニークな性格の持ち主ほど、有名になったケースもある』

 という話を思い出す。

 そしてエイルは、ひとつの答えを導き出す。

 ラルフは、生来のマッドな研究者だろう。

 いや、それは前々から決まっていた。

 しかし今回の件で、それが明確となる。

「お前の性格を改めて考えると、面白いな」

「何、それ?」

「いつもは当たり前のようになってしまっているけど、本当は楽しい奴なんだって。だからと言って、愛情を持つことはない」

 その瞬間、ラルフは舌打ちする。

 どうやら「愛する」と言ってほしかったようだが、エイルがそのようなことを口にすることはない。

 ラルフはポケットから血で汚れたハンカチを取り出すと、鼻を拭いていく。

 どうやら鼻血ではなく、今度は鼻水が両方の鼻から垂れてきたようだ。

「寒い」

「こんな場所で、立ち話をしているから。寒いなら、部屋に戻って寝ていれば。で、洗濯はやれよ」

「嫌だ! 冷たいのは」

 ラルフは、器用に片手で鼻をかむ。

 その後のハンカチの行方は、ポケットの中。

 どうやらラルフは「汚い」という感覚が無いようだ。

 もしそれを持ち合わせていれば、ポケットに入れたりはしない。

「で、エイル」

「キャシーの面倒は、嫌だからな」

「そのことは、もういいんだ」

 移り変わりの激しい性格に、エイルはムスっとした表情を作る。

 手伝ってほしいと懇願したと思えば、いきなり怒り出す。

 そして今は、関係ない。

 エイルは見えないように利き手を後ろに回すと、拳を作る。

 再び我儘を言うようなことがあれば、エイルは本気で殴る気でいた。

「さようなら」

「行かないで」

「何?」

「そんなに怒らなくてもいいじゃないか」

 ラルフは胸元で両手を組むと、頭を振り嫌々をする。

 その不気味な姿にエイルは後ろに隠していた拳を取り出すと、ラルフを殴ろうと身構える。

 しかし殴るのに飽きたらしいらしく、途中で止めてしまう。

 反射的に身構えていたラルフであったが、殴ってこないことに驚く。