暫くの間、ラルフは動かなかった。
「生きているか」
「ど、どうして……」
ゆっくりとした動作で顔を上げる。
その瞬間、ラルフの鼻から血が流れ出た。
俗に言う鼻血である。
鼻から下を赤く染めるラルフにエイルは戦くも、これといった対処は行わなかった。
うっすらと涙を浮かべ、救いを求めるラルフ。
それでもエイルは「助ける」ということはしない。
本来なら「助ける」という感情が湧いてくるものだが、ラルフに対してはそれが全く湧かなかった。
「俺が何をした!」
そのように叫びつつラルフは汚いハンカチをポケットから取り出すと、それで鼻血を拭く。
無論、血と鼻水がこびり付いたハンカチ。
ラルフは、それを躊躇うことなくポケットの中に入れてしまう。
まさに、汚すぎる行動。
このハンカチもまた、春まで眠るに違いない。
「いつものことだよ」
さらりとラルフの言葉を流すと、エイルは溜息をつきつつしゃがみ込む。
そして、血で汚れたラルフの顔を見詰める。
鼻血を流したぐらいで、ラルフがおかしくなることはない。
しかしやりすぎたという感情が湧いてくるが、感情と行動が一致することは決して有り得ない。
「何で、食虫植物なんだ」
一番の疑問点は、そこにあった。
植物を育てるということは素晴らしいことであるが、よりによって食虫植物とは――
ラルフの感覚が世間一般からずれているということは、間違いない。
「えーっと、丈夫だからだよ」
「つまり、普通の植物は弱いか」
意味不明な回答であったが、ラルフから発せられると妙に納得できてしまう。
つまり、普通の植物では実験が行えないからだ。
そしてマルガリータは改良の末に、どどめ色の花へと変化した。
その後エイルの手によって開放されたが、あのままの状態であったら間違いなく山百合の原型は失われていた。
そして、新種の植物が誕生していただろう。
それも、研究者を驚かせるような植物が。
「そう! だから、食虫植物なんだよ」
驚異的な早さで復活を遂げたラルフは起き上がると、何を思ったのか食虫植物が植えられた鉢植えを抱き締める。
まさにそれは異様な光景であり、キャシーに対しての愛情の高さを窺えた。
その姿にエイルはフッと鼻で笑うと立ち上がり、そのまま立ち去ることにした。


