ロスト・クロニクル~前編~


「今のは、冗談。冗談だって」

「冗談で、人に食虫植物をあげるか。お前が育てる動物や植物は、常識を逸脱している。それと、僕は手伝わない。食虫植物であっても、育てはじめたなら最後まで責任を持て。まったく、いい加減にしてくれないか。毎回、僕の世話になるなよ。自分で片付けられることは、自分でしろ」

「いいじゃないか! どうせ、暇なんだろ。暇なら、手伝ってくれ。これも、勉強になるぞ」

「お前の手伝いをするほど、僕は暇じゃないんだよね。こっちだって、都合というものがあるんだし。それにどうして僕が、マルガリータ二号もどきの世話をしないといけないのかな」

 その台詞に、ラルフの身体がピクっと反応を見せた。

 どうやらキャシーをマルガリータのように、逞しく成長させる気でいたらしい。

 それが判明した瞬間、エイルは舌打ちをしてしまう。

 まさか、予想が的中するとは――

 ラルフの考え方は、数通りしかないようだ。

 マルガリータが枯れたら、新しい植物を育てる。

 何ともわかりやすいパターンに、エイルは何も言えなくなってしまう。

 そして今回も、可愛らしい名前であった。

「な、なんだよ!」

「けったいな植物を育てやがって」

「なに、そのけったいって」

「知らないというのなら、それでいい。気になるのなら、後で調べるといいよ。ねえ、ラルフ君」

 次の瞬間、ラルフは無言で頷いていた。

 そう食虫植物のキャシーを見た時から、エイルは黒く染まりかけていたのだ。

 黒く染まった後に待っているもの、それはラルフに対してのおしおきだ。

 無論、これに関しての学習能力はある。

 しかし、実験の手伝いをしてほしいと思うのは正直なところ。

 あの実験は一人でやるのが大変なので、ラルフは意を決すると恐る恐る尋ねる。

「エイルは、全てに愛を与えないのか? 全てに愛を与えることは、大切だよ。平和に繋がるし」

「愛は、あると思うよ」

「なら、俺も愛して」

 ラルフはキャシーを床に置くと、両手を大きく広げる。

 そして感動の再開とばかりに抱きつこうとするが、エイルはそれを許さなかった。

 素早い動きで横に逃げると、片足をラルフの前に出す。

 誰でもわかる罠だというのに、ラルフは見事にそれに躓き床に顔面直撃してしまう。